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記事一覧
【連載】訪問者6(魔法仕掛けのルーナ24)
(このシリーズがまとまっているマガジンはこちら)
「ごめんなさい……」
おずおずと言いながら姿を見せたのは、アレクと同じ年頃——二十歳そこら——と思われる女性だった。丈の長いゆったりとした白衣で首元から膝下までをすっぽり覆っている。左右に分けた赤毛のお下げ髪は、ほどくと腰まで届きそうだ。
小柄な彼女はアレクを見上げながら、ずり落ちたメガネをそっと直した。
「所長は留守なので、ご用は伺えないの
【連載】訪問者5(魔法仕掛けのルーナ23)
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「さて、行こうか」
ジョージが立ち上がって歩き出した。足取りには確固とした自信が感じられる。
アレクは彼を追いながら、背中に声をかけた。
「魔法使いのいるところに向かってるんですよね?」
「そうだよ。俺とフリードの共通の友人がこの先に住んでるんだ。彼女もフリードのことを気にかけていたから、きっと君の力になってくれるはずだ。
……この街にいる
【連載】訪問者4(魔法仕掛けのルーナ22)
(このシリーズがまとまっているマガジンはこちら)
アレクは砂利道に立っていた。両脇は背の高い石の壁で、正面にまっすぐ行くと左右に道が分かれているようだ。突き当たりに植え込みが見える。
「おっと、立ち止まるなよ。行った、行った」
急かされて振り返ると、先ほどくぐった煙のカーテンからジョージが顔を出したところだった。アレクは慌てて後ずさった。
間も無く煙の中からジョージが全身を現し、アレクの横
【連載】訪問者3(魔法仕掛けのルーナ21)
アレクは控えめにあたりを見回した。
通りから向かって正面、右側に戸があった。その他の壁面にはいくつも木の板が打ち付けられ、棚のようになっている。が、ほとんど何も置かれていない。どれも高い位置にあり、手前を天井から紐で吊って安定させているようだ。
視界の端で何か動いた気がしたので何の気なしに振り返ると、棚の上で丸くなっていたまだら模様の猫が、ゆっくりと瞬きをしたところだった。
えらくどっしり
【連載】 訪問者2(魔法仕掛けのルーナ20)
脇道に足を踏み入れたのは、ちょうどアレクが二つ目のサンドイッチを食べ終わった頃だった。大人二人が並んで手を伸ばせば壁から壁に手が届きそうな、細い道である。右方向に緩やかにカーブしており、先が見えない。ついさっき通り過ぎた地味な戸は、民家の戸だろうか?
やや先行して歩いているジョージは涼しい顔をしている。右手にぶら下げている紙袋には、まだ確かな重みがありそうだ。
「お、いたいた」
彼が独り言の
【連載】 訪問者1(魔法仕掛けのルーナ19)
「とにかく魔法使いの協力を得る必要がある」
というのが、兄の親友を名乗った男——ジョージの言だった。
「さっきも言ったけど、トラップを無効化できるのは魔法使いか招待状だけだ。招待状は発行されるまで何日かかかるし、そもそも申請できるのは魔法使いだけだから、協力者を見繕って連れてきた方が早い。
当てがあるから案内しよう。たぶん力を貸してくれるんじゃないかな。フリードのことは俺も気になっていたから、
【連載】 魔法使いの街6(魔法仕掛けのルーナ18)
「ところで君、前にどこかで会ったかな?」
男が顔を近付けてきた。彼は顎に手をやり、目を細めている。
アレクは予想外の質問に面食らった。
「え? いや、それはないと思いますけど……」
「本当に?」
「だって僕は、この街に来たのは今日が初めてで……」
「そうか。うーん、どっかで見た顔だと思ったんだけどな」
男はまだ納得がいかない様子で、アレクの顔をじろじろと見ている。と思ったら、急に何かに驚いた
【連載】 魔法使いの街5(魔法仕掛けのルーナ17)
攻撃が止んだ。
ダランが手を下ろし、声がした方に訝しげな視線を送る。その顔がさも不快そうに歪んだ。
取り巻きの二人も同じように顔をしかめている。
「うわ、ミスター・ビーだ」
「まだこの街にいたのか」
(なんだ?)
うずくまっていたアレクは、呼吸を整えながら目だけを動かそうとした。すると、不意に何者かの手のひらが視線を遮った。
「君、大丈夫かい?」
声はすぐそばから聞こえた。いつの間に近付
【連載】 魔法使いの街4(魔法仕掛けのルーナ16)
声がした方を見ると、先ほどから何度も出くわしている男性客達が、ニヤニヤと無遠慮な視線をこちらに向けていた。
「迷子かぁ? 田舎モン」
一人が大声で言うと、残った二人があたりを憚らずに笑い声をあげる。
アレクは内心ムッとしたが、努めて表情には出さなかった。
(どっちも事実だ、落ち着け。意地を張ってもどうにもならないぞ)
彼は何食わぬ風を装って男達に近付いていった。距離が狭まるにつれて男達の顔
【連載】 魔法使いの街3(魔法仕掛けのルーナ15)
走りに走って、ようやく目指していた場所に辿り着いた時、アレクは疲労困憊といった様子だった。もう余計なものには関わるまいと気を張っていた結果だろう。
彼の目の前には森があった。
人工物にあふれた街中とは打って変わって、自然のままの姿を保っているように見える。ほんの入り口に立っているだけでも静謐な香りが鼻腔に届き、アレクの心は落ち着きを取り戻していった。
(兄さんの家は、この先だな)
ちらと背
【短編小説】 わたあめ姫
あるところに、ひどい癖毛の王女様がいました。
王様も王妃様も髪の毛には癖一つないのに、王女様の細い髪の毛はいつだってぐしゃぐしゃ。お城の召使いの手には負えず、あまりにも絡まりすぎてふわふわの丸い雲のように見えたので、王女様は国のみんなから『わたあめ姫』と呼ばれていました。
王女様は毎日鏡を見つめては、「こんな髪型じゃ、どんなに素敵なドレスを着ていたって台無しだわ」とため息を付いていました。