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おすそわけ日記 56 「なべて世は事もなし」

一日、活字と画面抜きに挑戦。

スマホ、PC、テレビを見ないのは心身を整えるためにたまにやっているのだが、本を読まないのは初めて。何とかなるもんだな。

やりたいことがないので、母と花札でこいこいをする。「勝ちたい」のではなく「負けるわけにはいかない」と云う気迫で勝った。

母、途中で「白髪のおばあさんに優しくしてください。」と言い出すが、私にだって白髪はある。そんなことで手加減すると思ったら大間違いだ。大体私は、我が家の大黒柱で最高権力者であった亡き祖母から、自分の望みと勝負事は決して諦めるなと言われて育ったのだから。

勝負が終わる頃には、母はすっかり諦めて緊張感を手放し、「平和でいいね〜。」とのほほんとしていた。最後の一分まで力を抜かない私と、好対照だな。

夜は、落語のCDを聴く。故・古今亭志ん朝師の「寝床」。この噺は、DVDの全集にも収録されているが、私は『志ん朝復活ー色は匂へど散りぬるを』と云うCDの全集に入っている物が噺がこなれて無駄がなく、秀逸だと思う。

志ん朝には、もっと長生きして欲しかった。一方で、志ん朝と同時代に生きられて少しでも寄席で噺を聴く機会があって、本当によかったと思う。

そう言えば、二十年程前に、区民ホールに志ん朝が出演したことがあって、奇跡的に一番前の真ん中の席が取れた。祖母と一緒に聴きに行き、トリの志ん朝まで首を長くして楽しみに待った。出囃子の老松で高座に上がった志ん朝が頭を上げて拍手が止み、私の興奮が最高潮に達した瞬間、祖母の「あらぁ、年取っちゃったねぇ。」と云う驚き声が響いた。

どう考えても本人に聞こえている。それも、全白髪の婆さんに言われるなんて。さすが志ん朝、客いじりもせずにすんなり枕を話し始めたが、私は冷や汗ものだった。

そして、あの日、志ん朝が何の噺を高座にかけたのか、まるで覚えていない。


【今日の一枚】『志ん朝復活ー色は匂へど散りぬるを』CD全集より「に」の巻。収録作品は、古今亭志ん朝の「寝床」と「刀屋」。

今日もおつきあい頂いて、ありがとうございます。

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大橋 あかね
毎日、書く歓びを感じていたい、書き続ける自分を信じていたいと願っています。