見出し画像

おすそわけ日記 239「エアデートで東京都写真美術館に行く」

暑い。もうどこにも行く気がしない。

しかし、二ヶ月前から見たいと思っていた写真展の会期が週末まで。

見ないと後悔するだろうなぁ。

うちで、恋愛ゲームやってたいのになぁ。


そこへ突然、輝くばかりの天啓が。

恋愛ゲームの推し彼とデートと云うことにしたら、どうでしょう?」


自分でも驚きの、エアデート設定。

ひらめいた途端に、即行で起き上がり、身支度に突入。

お出かけ自粛で、この夏は袖を通していないお気に入りのワンピースを着る。

メイクもバッチリ、髪もキレイ目にまとめて、鏡の中の私、別人のよう。


軽やかに家を飛び出したのはいいが、デートにしては荷物が多い。

愛用の靴の修理を美術館近くの靴屋に頼もうと、欲張ったもので。

目指すは、恵比寿の東京都写真美術館


さて、ここで説明させて欲しい。

私のエアデートの相手は、見かけは紳士、中身は塩対応で腹黒ドSな麻薬取締官。

駅の改札を出た途端「遅い」って怒られるんだろうなぁ。

でも、無言で荷物を持ってくれちゃうツンデレ。

暑さのせいにしたくなる程、妄想が止まらない。



ずっと行きたかった、東京都写真美術館。

折角なので、今、開催している展示三つを全部見ることにした。


まずは、お目当ての『アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真』展へ。

シュルレアリスム好きとして、日本人の作家の作品も見てみたかったのだ。

いかにもシュールなモチーフを使った作品より、今はモノクロの静かな作品に惹かれる。

普通の風景に潜むシュールを切り取る視点が好きだなぁ。

服部義文の<禅寺>シリーズなんて、お寺の日常が舞台なのに、超えた感じがしてスゴい。


作品に没頭している途中、エアデートの彼はどんな感じかしらと想いを馳せる。

そう言えば、海好きなアウトドアタイプじゃん!?こんなとこ来るんだろうか。

いや、でも、何でもござれのハイスペックだからな、きっと大丈夫だな。



お次は、メイン展示の『メメント・モリと写真ー死は何を照らし出すのか』展。

正直、重いとツラいなと及び腰だったのだが。

アメリカでは、メメント・モリにユーモアを忍ばせると云う解説文に、興味を持つ。


そうそう、エアデートの彼は元アメリカ国籍なんだよね。

どんな感想を言うかなぁと疑問が浮かんだ所で、ハタと気づく。

待って。メメント・モリがテーマなデートって何!?

これ、見に来るカップル、よっぽどこなれてないと。



失敗した感を漂わせながら、『イメージ・メイキングを分解する』展へ移動。

古い映像装置が並べられていて、疲れていたのに、テンションが上がる。

機械とか、仕組みを考えるの、本当にワクワクする。大好き。

タマシュ・ヴァリツキーの『あり得たかもしれないイメージ・メイキングツール』コーナー。

入った瞬間に、面白そうで、気持ちが走る。

機械の動作原理をモノクロのCGで描いた作品が秀逸。

こちらは、ミシンの動作原理を描いた作品

想像のカメラというCG作品シリーズも発想力が素敵。

こんなカメラがあったら、どんな写真が取れるんだろう

この展示が私、一番好きだな。

きっと、男の人でも、子供心をくすぐられて目を輝かせると思う。



美術館を出る時に「いっぱい見て疲れたけど、満足したね」

彼とそんな風に言い合う姿を想像する。

それから、靴屋に行って、ずっと気になっていた、靴の修理を頼む。

駅までの道すがら、隣に彼が居てくれると思うと、心が温かくなる。

同時に、過去に付き合った人たちが心をよぎって、

あぁ、私は随分と勝手で、相手を振り回したなぁと後悔する。


今日のエアデートは、どこで彼と別れたんだろう。

考えると、またリアルな思い出が浮かんできそうで、そこは、ぼやかしたままで。


家に帰って、鏡に映った自分に笑顔で感謝を伝える。

エアデートにつきあってくれた彼にも「ありがとう」と。

その瞬間の自分が嬉しそうで、綺麗で。


思いきって、エアデートを実行してみてよかったなと、心から思う。

ちょっと、かなり、恥ずかしいとか、自分を心配したりしたのだけれど。

歩いたり、足を止める、一つ一つの動作を楽しんで、味わって。

贅沢にも、一人の時間と二人の時間の両方に居ることが出来た。


今日一日、私を幸せに出来て、本当によかった。




【今日の一枚】東京都写真美術館の入り口。巨大写真パネルの三枚組で、入る前から心躍ります。

【今日のエアデートの彼】『ドラッグ王子とマトリ姫』と『スタンドマイヒーローズ』に登場する、今大路峻

【#つづく日々に】のタグをつけて、日常で心ときめいたことを投稿中。日常のよろこびをみんなでシェアしあって、笑顔が増えたら嬉しいです。


いいなと思ったら応援しよう!

大橋 あかね
毎日、書く歓びを感じていたい、書き続ける自分を信じていたいと願っています。