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『潮が舞い子が舞い』の新刊が出るたびに思い出すこと

『潮が舞い子が舞い』の新刊が発売されると、いつも思い出すことがある。

それは、私がいま住む町に引っ越してすぐの、2年近く前のことだ。

荷物の整理やいろんな手続きがいそがしく、愛読する漫画『潮が舞い子が舞い』の最新刊(3巻)の発売を失念していた私は、気づいたその瞬間からどうしてもすぐに手に入れたくて、徒歩圏にある本屋に行った。

はじめて入店するその本屋は想像以上に売り場面積が小さく、「これはちょっと無理そうかなあ…」などと思いながら店内をうろついてみたものの、やっぱり目当ての本は見当たらない。

この時点で私はもうほとんどあきらめていたわけだけれど、せっかく来たのだから…ということで、店内の在庫を確認してもらおうとレジに並んだ。

ここで対応してくれたのが、いかにもその佇まいにやる気を感じない、腰掛バイト然とした長髪細身のお兄ちゃんだ。こりゃあダメだ…と思いながら、それでもいちおうスマホの画面を差し出して「これ、置いてますか?」と聞いたところ、画面を見るやいなや、彼は言った。

「“シオマイ”っすね。ちょっと待っててください」

そして、すぐさま新刊コーナーへと駆け出していき、数分後には”シオマイ”=『潮が舞い子が舞い』の最新刊を持ってきてくれたのだった。

なんと熱心な店員さんだろう。どうか私の偏見を許してください――。そんな思いを抱きながら支払いを済ませると、彼は少しはにかみながら「俺、好きなんですよ、シオマイ。面白いっすよね」と言い、最新刊を渡してくれた。


どうして私はあのとき、ろくに返事もできなかったのだろう。

ただ、彼と同じように「僕も好きです。最高ですよね」と、想いを共有するだけでよかったのに。

もう7巻になった『潮が舞い子が舞い』は変わらず最高のままで、今度こそ想いを共有したくて私はまたあの本屋に行くのだけれど、バイトの兄ちゃんはもうそこにはいないのである。

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