あかん兵衛

ぐるぐると思うことをかたちにするためにしたためた駄文です。よろしければお読み下さい。

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最近の記事

『潮が舞い子が舞い』に対する想いをどう表現すればよいのか

阿部共実さんの『潮が舞い子が舞い』が堂々完結した。 この作品について、公式HPは次のように説明している。 この説明文を帯などで読むごとに、私は、小さな違和感を覚えていた。 確かにこの作品は、「あかんたれ」な高校生が織りなす「愛しい日常」を描いた作品ではある。 しかし、この文言では、この作品の大切な“よさ”というか、読後に感じる“豊かさ”を取り逃がしているような気がしたのである。 そんなことを考えながら、完結を機に作品を改めて読んでいたところ、この作品の登場人物のひとりで

    • ムスカを待ちながら~ムスカとアシタカの「眼」から、ぼんやりと人生を考える

      物語の世界に敵キャラは数多くいるけれど、ムスカ大佐が圧倒的に悪人であることは、おそらく誰にも異論はないだろう。その悪人性を象徴するのが、あまりにも有名な次の台詞だ。 確認しよう。驚くべきことに、ムスカには人がゴミのように見えるのである。 そもそも、悪人を悪人たらしめるものは何かといえば、それはきっと「世界の見え方」だ。海賊だから悪人なのではないし、人を殺したから悪人になるのでもない。世界をどのように眺め、どのような世界に生きるか。その世界観こそが、悪人を悪人たらしめるので

      • 『ミラベルと魔法だらけの家』によっていじけた私の魂の行方

        ※ネタバレあり  思うに、この作品には二つの物語がある。一つは「特別なチカラ(=GIFT)を持つ者の物語」で、もう一つは「特別なチカラを持たない者の物語」だ。  このうち私は、前者にまつわるメッセージには強く共感する一方で、後者にまつわるメッセージについては、なんだか腑に落ちないというか、モノ足りないというか、もやもやしたものを感じた。  以下、自分のこのもやもやがどこから来るのか、考えを整理したい。  細かいあらすじは省略して設定だけ確認すると、主人公のいるマドリガル一

        • 『潮が舞い子が舞い』の新刊が出るたびに思い出すこと

          『潮が舞い子が舞い』の新刊が発売されると、いつも思い出すことがある。 それは、私がいま住む町に引っ越してすぐの、2年近く前のことだ。 荷物の整理やいろんな手続きがいそがしく、愛読する漫画『潮が舞い子が舞い』の最新刊(3巻)の発売を失念していた私は、気づいたその瞬間からどうしてもすぐに手に入れたくて、徒歩圏にある本屋に行った。 はじめて入店するその本屋は想像以上に売り場面積が小さく、「これはちょっと無理そうかなあ…」などと思いながら店内をうろついてみたものの、やっぱり目当

          最新クレしん映画の豊かすぎるメッセージと自己批評性

          『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(7月30日公開)を観ました。 その理由は、〈今年のしんちゃんは泣ける!〉〈遂に『オトナ帝国』『アッパレ戦国』を超える怪作が誕生!〉などという絶賛レビューがいくつか漏れ聞こえ、興味をもったからです。 特別泣きたい気分だったわけではありません。また、過去作『オトナ帝国』は奇跡が生んだ無二の作品だと思っているので、私の構えはあくまで半信半疑です。 「ここ数年離れていた『劇しん』、久しぶりにちょっと覗いてきますか…」というくらい

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          ぜんぶ、アシタカのせい ~なぜ私は『もののけ姫』を愛せないのか~

          『もののけ姫』を愛せないのはアシタカのせい1997年に公開された映画『もののけ姫』は、当時としては日本最高の興行収入を記録した大ヒット作であるけれど、その物語に対する国内の評価は必ずしも高いものではなかったらしい。私の周囲に話を限っても、『ラピュタ』最高だよね、とか、『魔女宅』泣けるよね、などという感想は聞くものの、『もののけ姫』に対する好評はあまり聞いたことがない。 私たちは、どうして『もののけ姫』を愛せないのだろう。   思うにそれは、ぜんぶアシタカのせいだ。 アシタ

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          『潮が舞い子が舞い』は変わらなくない日常を描く

          この作品の特徴は、何よりもまず、登場人物の多さにある。 1巻の時点で、同じクラスにおける20名ほどの人物が登場するのだが、2巻ではさらに、おそらくクラスの全メンバーである36名が、それぞれに異なる顔と名前とキャラクターを与えられて、作品に登場するのである。 これだけ多くのキャラクターが矢継ぎ早に登場すれば、それぞれの顔と名前など、次から次へと忘れてしまいそうなものであるが、きっと、ほとんどの読者はそうならないで済む。 なぜかといえば、それは、この作品の登場人物が、巧みにグル

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          最高すぎる『水は海に向かって流れる』の壮大なタイトル回収

          田島列島さんの『水は海に向かって流れる』が、最高の終わり方で堂々完結した。 最終巻を購入して以来、私は毎日、さいごの数ページをめくってはその都度心をふるわせているのだけれど、なぜこんなにも心がふるえるのかといえば、それはきっと、この物語が「止まっていた榊さんの時間が再び流れはじめるまで」を丁寧に描いていて、しかもその変化がアクロバティックであると同時に強い説得力をもつという奇跡のバランスで描かれているからだと思う。 そのことを確認し、読後の私のさめない興奮をしずめるために

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          『月曜日の友達』に耳をすませば

          阿部共実『月曜日の友達』は、とにかく心を揺さぶる物語である。 公式の作品紹介を引用するに、『月曜日の友達』は「大人と子供のはざまのひとときの輝きを描く、まばゆく、胸がしめつけられるガールミーツボーイ物語」なのだという。 この紹介文を読み、私は、これって『耳をすませば』と一緒じゃん、と思った。さらに、そう思ってから読み返すと、中学生の男女を描いた物語であるという舞台設定だけでなく、主人公の少女が本読みで文章を書く仕事につこうとすることや、自転車で2人乗りをする描写がどちらも

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          【発売22周年記念】HOT LIMITとは何だったのか

           かつて時代の先端にあったものは、往々にして嘲笑とともに振り返られるものであり、90年代の女性に見られる太い眉毛やシャツをパンツインする男性のファッション、たけのこ族からなめ猫まで、無限の事実がこれを例証している。  しかし、ことHOT LIMITについて言えば、この法則を当てはめることはできない。僕らは決して回顧的にHOT LIMITを笑うのではないし、嘲けりよりは畏敬の念をこめてこれを愛するのである。  裸に黒い紙テープを巻いた男性がクネクネと海面で踊りまわり、絶頂のポ

          【発売22周年記念】HOT LIMITとは何だったのか

          【ネタバレあり】映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』の結末に納得のいかなかった私は、しかしその物語上の巧みな仕掛けに気づいて戦慄、手のひらを返して傑作であることを確信するにいたる

           久しぶりに映画館で映画を観た。『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』である。  私ははじめ、この作品の結末に納得がいかず憮然としていたのだが、のちにその仕掛けに気づくとともに戦慄し、今では傑作であることを確信している。  なぜこのような心持ちにいたったか、その軌跡を、ここに簡潔に記そう。  この作品には、とにかく魅力的な人物が多く登場する。この作品でアカデミー主演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナン演じる主人公のジョーをはじめ、個性豊かな姉妹たち、さ

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          『響』の主人公は悟空で、平手友梨奈がベジータである理由

          『響』の評価は分かれている 漫画『響』は、賛否両論、毀誉褒貶ある不思議な作品である。  マンガ大賞2017で大賞を受賞し、翌年には平手友梨奈主演で実写映画化されたことからも分かるとおり、この作品が、多くの読者から支持を受けた大ヒット漫画であることは論を待たない。しかしながら、この作品に対する世間の評価は必ずしも高いものばかりではなく、例えばAmazonを開けばそこには☆1レビューが並んでいて、「好き嫌いが分かれる」「ダメですね」などと書かれていたりする。  好かれるけれども、

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          欅坂46は今こそ秋元康に向けて『一番偉い人へ』を歌うべき

          『サイレントマジョリティー』のねじれと秋元康に感じる不思議 欅坂46の1stシングル『サイレントマジョリティー』には、次のような一節がある。 君は君らしく 生きていく自由があるんだ 大人たちに支配されるな  眼光鋭い少女たちが生まれてきた意味を問いかけ、「大人たちに支配されるな」と訴える。若い世代に限らず、多くの人の心に刺さる力強さを持った名曲である。  しかし、自身の興奮を抑え、少し距離をとってこの曲について考えると、ある違和感を覚えずにはいられない。それは、「大人たち

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