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【第233回 開催レポート】「斜陽」太宰治

開催日:2024年4月25日
課題図書:「斜陽」太宰治

「伊豆」っていいですよね。広い空と青深い海、温泉の湯煙と緑の山林木、新鮮な魚と黄金の麦酒。

関東近郊に住んでいる身としては、箱根と熱海を越えて、更に純度の高い非日常や癒しを与えてくれる場所として、いつも心の遠くに見えている気がします。

四月になり新年度が始まった頃、バタバタとする身の周りや自分自身を俯瞰していて、少しまた現実から離れたくなったのかもしれません。

コーヒーを飲みながらふと、「伊豆が舞台の小説」をテーマに課題図書を選んでみようと思いました。「伊豆感」を求めて。

そして、みなさん投票で太宰治の「斜陽」が今回の課題図書として決まりました。

1947年に発表されたこの作品は、戦後の日本におけるある没落貴族の家族とある作家の四人を中心に、九割は伊豆を舞台に、残りは東京を舞台に作品が進んでいきます。

美しくも堕ちて行く人間模様が非常に高く評価されている作品です。

まず、個人的な感想としては以下の二点を強く感じました。

言葉のリズム

・言葉のリズムが独特な感覚がありました。綺麗な日本語だなあと、読み進めていると急に、母の「あ」、かず子の「戦闘、開始」のような短くインパクトのあるフレーズがスッと挟まれているからかもしれません。そのリズムの緩急が良いからか、時として重たかったり平易な場面もあるのですが、どんどん読み進められてしまう不思議な感覚がありました。

物語の構成

・物語の構成として対比や比較が美しく練られてて、四人(ママン、直治、かず子、上原)のそれぞれ堕ちてく様子が悲痛な一方どこか美しいです。

貴族のまま美しく堕ちゆくママン、一般人になりきれず貴族のまま堕ちてく直治、成り上がったが自分を保てなくて堕ちる上原、恋心を武器に貴族から生まれ変わろうとするかず子、それぞれの心理状態が鮮明に、暗く、ただ美しく描かれていました。

参加されたみなさんの感想は以下のようなものでした。

全体的な感想

・ネガティブな全体のトーンの中で品格の高さを感じた。

・昔読んでわからなかった良さが理解できた。

・表現が一部古いところがあったり、前提知識(時代背景など)を知っているとより楽しみやすいだろうと思った。

・これまで読んでなかったことを後悔するくらい面白かった。

・これまでの課題図書で1番好きな作品になった。

表現の特徴

・物語のトーンとして、暗いというバイアスを持って読み始めたのだが、ユーモアのある表現や不思議な表現があることで意外性を感じながら読んだ。

・男性作家が女性の視点で描く物語は少ないと感じる。その女性の視点で描かれる手紙の場面は思うところがあったが、その後自分が抱いた感情について作品の中で批判されるという体験があった。

・注釈に多くの情報が付記されていて、当時の作品のインテリ作家の高い前提知識が感じられた。そしてそれらを確認しながら進めるような読書体験だった。

その後は作品についての議論が進み、以下のようなポイントが出ました。

かず子のその後

・恋と革命で彼女はその後生きて行くのか、それとも周りと同じように没落して行くのだろうか。

・そもそもの女性としての強さに加え、母親としての強さを持ったかず子は強く生きていけるのではないだろうか。

かず子の恋模様

・かず子の恋愛には唐突感があったように感じる。

・本当にあのような形の一方通行な恋愛は現実的にありうるのだろうか。

・手紙を書く中で自分をある意味洗脳して行くような形ではなかったか。

・かなり唐突な印象な一方でかず子のようになってしまう経験は多くの人が通っているので共感もできてしまう。

実世界の貴族

・実社会にもこの没落貴族的な背景を持った人や、ビジネスの世界でもその歴史見ることができるので、リアリティがある。

結びとして、みなさんからすごく好評をいただき、議論も賑やかに進み、個人的に「斜陽」は思い出の作品となりました。

「斜陽」は沈みゆく太陽です。作中ではそれぞれの登場人物が美しく堕ちていきました。

ただ個人的には、みなさんが言うように強い女性であるかず子だけは、また太陽のように昇っていったのだと想像しています。

本来みなさんと共有したかった冒頭の「伊豆感」がほとんどなかったことには苦笑いしつつ、頭の片隅でそれを感じながらまた日常に、喧騒に、戻っていきます。

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