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【第158回 開催レポート】「崩れゆく絆」チヌア・アチェベ

開催日:2019年8月30日
課題図書:「崩れゆく絆」チヌア・アチェベ

暑いときには、暑い国の物語を、それもあまり、馴染みのない国の文学を!

今回の作品は、「アフリカ文学の父」といわれるナイジェリア出身のイボ人作家、アチェべの「崩れゆく絆」です。

西アフリカのどこかにある、「ウムオフィア村」。
そこには、古くから伝わる言い伝えや、呪い、祈りがあり、村のおきてに沿って人々が暮らしを営んでいました。主人公は、一代で名声と財産を築いた男、オコンクゥオ。このオコンクゥオが家長として日々、一族や共同体の問題に直面するのですが、彼を真に追い詰めたのは、先祖の精霊でも、厳しいしきたりでも、戦争でもありませんでした。西欧社会からきた、キリスト教だった――というお話です。

さて、ナイジェリア。地図のどこにあるのか正確にいえるでしょうか?
ナイジェリアに行ったことのあるメンバーは、ひとりもおらず、一番多かったのが「ナイジェリアの文学を初めて読んだ」という声でした。本を通して未知の土地にせーの、で飛び込めるのが、読書会で味わえる素敵なことのひとつ。
ここで、メンバーによる読後の寸評を簡単にご紹介します。

* よその正しいことを受け入れる前に自分の正しいことを貫くと悲劇になる。(K)
* オコンクゥオには共感できないけれど、終わり方が好き。(KN)
* 植民地主義、宣教師がダーク。「おらおら」な家父長制へのアンチテーゼ。(S)
* コミュニケーションの下手さ、自分たちと違うことの否定から生まれる悲劇。(HT)
* オコンクゥオの人生は、その親――いただけない父が落とした影に支配されている。(M)
* 『船乗りクプクプの冒険』が頭の中で重なった。(Y)
* アメリカ大陸での宣教師のことも頭に浮かんだ。アチェべの三部作も読みたい。(M)
* 日本の室町文化がアフリカの文化と構造が似ている、という説を思い出した。(HM)
* 文化を理解させようというスタンスの訳注が、理解を助けてくれた。(P)
* 女の弱い男社会。迫害されている人を救う、という布教のやり方は巧み。(N)
* 「古来からの調和」の崩壊を安易に批判せず、冷めた目で書いている点が秀逸。(K)
* 被支配者の文学に惹かれる。また、文化も含めて伝えようとする訳者の愛を感じた。(R)

などでした。

とくに注目が集まったのは、オコンクゥオのキャラクターと、彼の悲劇について。イボ族独特の善悪の価値観と、倫理観が織りなす強引なストーリーを、強引な主人公がズンズンと進んでいきます。愛されキャラでもなく、共感も得られにくく、万能でもない、どちらかというと<めんどくせぇ>男――という主人公の設定は、果たして効果的だったのか?この結末で良かったのか? という疑問が挙がりました。ほかに、植民地化の世界史を今一度、洗い出してみたくなった、という意見も出て、司馬遼太郎氏の名前も引き合いに。歴史好きメンバーが熱い、赤メガネならではのディスカッションでした。

ディテール萌えで盛り上がったのは、独特の表現。イナゴの群れの到来に人々は喜び勇み、足の踏み場もないほどの人混みを、米粒を使った比喩で言い表す。こういうくだりをみつけ、固定観念が崩されて嬉しがるのって、旅と重なります。

世界文学は、こんなふうに常識をくつがえし、隔たりを埋めるものであってほしいです――文学のない人生なんて!

ナイジェリアの人をちょっとでもわかろうと、干したイナゴをみんなでポリポリ食べ、ヤム芋のフフ*をつつき、ヤシ酒を酌み交わし語らったような、そんな回となりました。さてさて、次はみんなでどの国を旅しましょう?

(* ヤム芋を餠のように臼でついた食べ物)

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