彼は死んでも作品は生き続ける マッシモ・トロイ―ジ「イル・ポスティーノ」
チリの詩人パブロ・ネルーダが祖国を追われ、カプリ島で生活した史実をもとにしたアントニオ・スカルメタの小説を映画化した1994年の作品。監督は「1984」のマイケル・ラドフォードです。
しかし、この作品は原作者のものでも監督のものでもなく主演のマッシモ・トロイ―ジの作品として生き続けています。
それは脚本にも参加した彼が心臓に病を抱えながら撮影に臨み、撮影終了直後に亡くなったというエピソードから広く彼の想いを伝える作品として記憶されているから。
物語は
イタリアの水道も通っていない小島に故郷チリを追われてやってきた詩人パブロ・ネルーダ。島の無職の青年マリオは父に言われて職探しをし、郵便局でパブロ専属の郵便配達という仕事を見つける。
パブロに届く手紙はほとんどが女性からのファンレターで、マリオはそんなプレイボーイの彼に島の居酒屋で働くベアトリーチェへの恋心を相談するが…
寓話的な物語
プレイボーイの詩人と素朴な島の青年が詩を通じて仲良くなり、恋愛相談をし、彼のアドバイスで作った詩が彼女の心を捉えて二人は結ばれるもパブロは故郷に帰れることになり島を去る。数年後、パブロは再び島を訪れるが…
いろいろと謎がある!
大変よくできた物語で当時、話題になったのも納得だし、30年ぶりに観て普遍的な魅力を持つ作品だと実感しました。
マリオは年齢不詳でやることは10代の少年みたいだけど、時折見せる顔は中年のおっさんです。マッシモ・トロイ―ジの実年齢が41歳だったのでそれも当然です。
パブロ役が「ニュー・シネマ・パラダイス」のフィリップ・ノワレでフランス人の彼の代表作がイタリアを舞台にしたこの2作というのが異色です。
この作品自体のイメージが「ニュー・シネマ・パラダイス」と重なって思えるのはフィリップ・ノワレのせいだとわかりすっきり。
ちなみに監督もイギリスのマイケル・ラドフォードなのでなぜ、イタリアの田舎を舞台にしたこの作品を彼が監督したのかも謎です。
「男をつらいよ」を見ている気分になる
マリオがベアトリーチェにひとめぼれして、パブロにいろいろ相談して不器用にアタックしていく様は「男をつらいよ」の寅さんを見るようでなんか懐かしさもありました。
しかし、結婚してからの展開の寂しさがマッシモ・トロイ―ジの死を覚悟していたことがそのまま重なり悲しい感じがします。
こういうまっすぐで純朴な物語が最近はあんまり作られていない気がします。
いろいろとギスギスしている今こそ、またこういう一途な男の物語が観たい気がします。