ラーガルフリョウトゥ河の蛇

 昔々あるとき、ラーガルフリョウトゥ河に面するヒエラズというところの農家にひとりの女が住んでいた。その女にはひとりの成人した娘がいた。女は娘に金の輪を贈った。娘は訊ねた。「金でできたこれをどうするのが一番よいのかな、お母さん?」「それを藪の蛇の下に置きなさい」と女は言った。娘は蛇を取ってくると、金の輪を下にして、亜麻布用の小箱に入れた。蛇はそこで数日じっとしていた。しかし娘が様子を見に行ったときのことだ。蛇はとても大きくなっていて、小箱ははち切れてしまっていた。娘は怖くなって、即座に小箱を取り上げると、全部まとめて河に投げ捨てた。それから長い時が経ち、今では河の蛇に人々が気付きだしている。河を渡る人間やら他の生き物やらを蛇が殺しだしたのだ。ときおり河岸で天に向かって身体を伸ばし、恐ろしい毒を吐きもした。これは大変な厄介事だと思われたものの、どうやって解決すればよいのかは分からなかった。そこでふたりのフィン人が連れてこられた。彼らに託されたのは、蛇を殺し、金の輪を手に入れることだ。彼らは河に飛び込んだが、すぐにまた上がってきた。フィン人たちが言うには、ここにいるのは凄まじく手強いやつで、その蛇を殺すことも金の輪を手に入れることも不可能とのことだった。別の蛇がその金の下にいて、そいつはさらに凶悪なのだ、と彼らは言った。そこでフィン人たちは蛇を二本の縄で結ぶことにした。一本は前ひれの後ろで縛り、一本は尾びれのあたりで縛った。そのため蛇は人も動物も殺せなくなったのだが、くの字に背中を曲げるようになり、それが水面から出て見えるとしたら、それはたとえば凶年や生草の不足といった一大事の前触れなのだと常々思われている。
 この蛇のことを全く信じていない人達は、この話を与太話であると言い、とある牧師が、決して大昔のことでなく、蛇がいると目されるところを舟を漕いで渡っていた、という話を持ち出して、蛇なぞいないと証明しようとしているようである。

ムーラシストゥラ区出身の学徒の話より。


(„Ormurinn í Lagarfljóti.“ 1864. Íslenzkar þjóðsögur og æfintýri. I. bindi. Safnað hefur Jón Árnason. Leipzig: J.C.Hinrichs. Bls. 638-639.)


脚注を加えたものは、ウェブサイト「氷本(ひょうほん)」で公開しています。「ラーガルフリョウトゥ河の蛇」(http://isl-jp.net/ormurinn-i-lagarfljoti

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