中国映画『シャドウプレイ【完全版】』ネタバレ感想/激動の時代を駆け抜ける
公開が決まっていたのに延期となり、どうなったのだろう…と思っていた。当局の検閲の問題があったようだ。2019年の第20回東京フィルメックスでは、完全版ではなく、中国で公開されたバージョンでの上映であった。今回上映されたのは、4~5分ほど長い完全版となる。
映画は2013年、都市開発に反対する住民の暴動から始まる。暴動を抑えるために警察が出動し、その後開発の責任者・タンが姿を現し、暴動が鎮まった後、不審死を遂げる。
事件を担当することになった若き刑事・ヤンは、亡くなった男と親密であった社長・ジャンとその妻・リンが何かに関わっているのではないかと疑う。調べているうちに彼らと関わりがあり、失踪し行方がまだわかっていないアユンの事件に辿り着くも、何者かによって罠にはめられ追い詰められていく。
ことの発端は1989年のジャン、リンそして不審死を遂げたタンの出会いから始まっていた。ヤンが辿り着いた事件の真相とは。
80年代から現代へ。激動の時代を、実際にあった汚職事件をベースに描き出す。エンディングに出てきた実際の写真を見て再現度の高さに、ここまで描いてしまって良いのか、と驚く。バブリーな時代を経て、己の欲望に飲まれ、他者を利用し、利用され…疑心暗鬼になっていく人間の愚かさは人間ドラマとしてもサスペンスとしても見応えがあった。
ロウ・イエならではの凝った映像も良いが、アクションシーンなどは凝りすぎて目が疲れてしまうところも。
合わせて『夢の裏側〜ドキュメンタリー・オブ・シャドウプレイ』についても触れておく。こちらは、『シャドウプレイ【完全版】』の撮影の裏側を、ロウ・イエのパートナーであるマー・インリーがドキュメンタリーとして監督した。
検閲の部分がネックかと思っていたが、それ以上に撮影時の方が皆大変そうで。中国の撮影事情も、日本の撮影事情も詳しくないので、比較したりすることはできないが、ドキュメンタリーを見ているとスタッフにも役者にも相当負担がかかっている様子であった。
本物の肌の質感を求めるため、女優に顔パックなどのケアをしないようにや、メイクも極力しないといったロウ・イエ監督のこだわりは興味深かった。
監督の求めるものが掴めるまでは本当に苦しいという声も多く聞かれ、長回しでアクションを撮るので心身ともに疲弊しているという話も。
また撮影現場の確保や役者のスケジュール確保など運営側の大変さも垣間見え、本当に映画が出来上がって観客に届くまで相当な時間と苦労がかかっているのだなと痛感する。そしてそこまで苦労して仕上げたものを検閲で削除しろと言われる国の事情がやるせない。