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映画『バブル』ネタバレ感想/知ってしまった親の秘密、拗らせた思春期

2022年制作(フィンランド)
原題:Kupla/Bubble
監督:アレクシ・サルメンペラ
キャスト:レータ・ルオツァライネン、アレクシ・サルメンペラ、アモス・ブロテルス
フィンランド映画祭2023上映作品

冒頭、車に乗る3人の女の子たちを見ると思わず昨年のフィンランド映画祭で見た『ガール・ピクチャー』を連想してしまう。『ガール・ピクチャー』は友情を中心に描くシスターフッド映画だったが、本作は思春期の主人公の内面の成長と家族の物語を中心にした映画であった。

16歳のEveliinaは、友人らとパーティに行った際に母親が女性と車の中でキスしてしているところを目撃してしまう。咄嗟に車のナンバーをメモし、持ち主を探すと何と学校の児童福祉員であった。

父親は教師、母親は大企業でバリバリ働き、Eveliina自身もおそらく頭がよく学校でも問題児ではなく優等生の方だろう。そんなEveliinaは母親の浮気を知り、しかも母親がレズビアン(もしくはバイセクシャル)ということで困惑し、1人で思い込みすぎて暴走してしまう。

母親は仕方なく自分を産んだのでは。自分が邪魔をしている、離婚させた方がいいとかと思ってみたり、両親をまた仲良くさせようとしてみたり…。どれも上手くいかず、イライラと絶望的な気分だけ増していく。

両親も両親で娘の様子がおかしい原因がわからず、Eveliinaに問い詰めてしまったり、家族の時間を作ろうと頑張ってみたり。3人とも皆全てうまくいかない。両親は自分たちの真実をEveliinaに話そうと決心する。(すでにEveliinaは知っているわけだが…)

真実を両親が話そうとすると、Eveliinaは遮って「妊娠している」と嘘をついてしまう。恐らく性の経験はないはずなのに。優等生故の拗らせっぷりが、はた迷惑なことをしていると思いつつも嫌いになれない。

一番迷惑なのは妊娠させたとEveliinaの両親に勘違いされたJoniである。しかし、このJoniがまたいい子なのである。流石にレイプしたと疑われ怒りはしたが、Eveliinaの言い訳を聞いて「俺からは弁明しないでおく」とまで言ってくれるのである。以前からEveliinaに好意を寄せており、泥酔した上に漏らした彼女を家まで送り届けてくれたのも彼である。

また、Joni役のアモス・ブロテルスは、『ガール・ピクチャー』でイケイケの青年役で登場するが、本作ではクラスでどちらかというと風変わりな青年を演じていた。本作を見て、私の中で今後も注目したい俳優の1人になった。

両親の性生活を勝手に改善しようとしたり、母親の浮気相手との仲を割こうとしたりとはたから見ていると、Eveliinaのしていることは自己中心的で子供っぽい拗らせに見えるが、16歳なんてそんなもだろう。

悲劇の最中に自分はいると思い込んで深刻に捉えすぎてしまうが、家族の問題はそんなに難しく考えずに前に進めてしまったり、学校の皆はそんなにEveliinaの一挙一動を気にしてなかったり。案外良くも悪くも日常は勝手に回って行くのである。

それにしてもフィンランドのティーンは普通にお酒を飲み、車を運転するので驚いてしまう。一応劇中のセリフからもお酒は18歳からしか買えないとのことだったので、法的に飲酒可能な年齢は18歳以上なのだろう。それでも親は子供が飲むことを知っていてと別に止めない。親によっては止めていたりする場合もあるのだろうが…。そのあたりの文化の違いは強く感じる。

フィンランド映画祭2023で見た映画4本のうち3本はクィアな人々が登場し、カミングアウトに主軸をおかず、映画の中で種明かしのようなサプライズのようなものとして描いていない点も良かった。

Eveliinaの話が主軸でEveliinaの友人の2人の女子についてはあまり語られなかったが、ラストのパーティで2人がキスをしている場面があり、この2人もクィアな関係性なのかもしれないとふと思わせる。もう少し描いてくれても良かったような。

Eveliinaが己の未熟さを、しっかり謝ることができたこと、親自身も不完全な存在であることを描いてしっかりとラストでまとめてくれたので、嫌な部分を残さず爽やかな気持ちで劇場を後にした。今後もフィンランド映画祭は追っていきたいし、一般公開されるフィンランド映画も増えて欲しいな。


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