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年間ベスト10〜2022〜

2022年の年間ベストまとめ。
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年間ベスト

①さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について

君は何かを失ってでも得ようとする人、僕は同じようには生きられない。変わりゆく時代の中、行き先を求め足掻いた。ふとした会話にハッとさせられ時代に翻弄されるファビアンの姿をどこかで見たような不思議な感覚。

恐らく、私自身がまさに今色々な選択肢を迫られていると感じていて。本当に今のままでいい?と悩み、全てを投げ出して彷徨いたい気持ちと、待ってくれない渦の中で言葉にできない焦りを感じている。焦らなくていいなんて言葉は逆にきつい。だからこそ同じように足掻くファビアンの姿が救いになる。

②エル プラネタ

経済的には明日の生活も危ういというのに優雅に着飾る母娘。小洒落たモノクロトーンの日常はまるでオードリー・ヘプバーンの『ティファニーで朝食を』見ているかのような錯覚さえする。けれどその背後にある現実に呆然とする。クスッと笑えるのに泣いちゃいそう。

監督・主演を務めたアマリア・ウルマン(Amalia ulman)を今作ではじめて知ったが、存在感もセンスも何もかもが素晴らしい!今後も大注目したい。また、母親役もアマリア・ウルマンの実母と知り驚いた。

『ティファニーで朝食を』の映画ではロマンスが中心に描かれているが、トルーマン・カポーティの原作では主人公ホリー働かず金持ちの男性との交際で生活し、映画より奔放で彼女を巡る人間関係はごたついている。彼女自身は何も持っておらず、ある意味着飾った人生を送っている人物とも言えるのかも。

ホリーはティファニーで朝食を食べるようなご身分になりたい。要するにそういうご身分ではなかった(もしくは今もそうではない?)わけで。時代もテーマも『エル プラネタ』とはやや違うがショーウィンドウを眺め、試着する母娘の姿にどこかホリーを重ねてしまった。

③ユンヒへ

④ストレイ 犬が見た世界

犬の殺処分禁止となったイスタンブールで暮らす野良犬に密着したドキュメンタリー。犬の目線で見た街の人々、社会問題。逞しく生きる犬の姿になんだか泣きそうになる。犬と人間は共生しているようでしていない。しかし弱者には寄り添い、その眼差しには一点の曇りもない。

⑤同じ下着を着るふたりの女

平気で殴り、暴言吐き、世話してやったという母親のクレイジーっぷり。息苦しさを感じながらも母親に何かを求めてしまう娘。一言でいいから謝って欲しい。どこか『三姉妹』に通ずるものも感じた。見ている側も終始息苦しいが、素晴らしい。とても良かった!

母親としての責任のなさ、自分勝手さを責めるのは簡単だが、見方を変えれば母親もそれ以外の生き方を知らないのかもしれない。それだけで母親を許してしまって良いものかは別問題だが、暴力の連鎖について考えてしまう。キム・セイム監督は本作が商業映画デビュー作という。恐るべし……。

⑥おひとりさま族

淡々と仕事をこなし、常にイヤホンをして動画を見て人との関わりを避けているジナ。隣人の孤独死、新人の指導、疎遠だった父…“1人が楽”と、“1人が好き”は似ているようで違うのかもしれない。ちょっぴり心が軽くなるような柔らかさが良かった。

⑦あなたの顔の前に

突然アメリカから帰国した姉。ただ会いたかったから。何気ない一言に宿る彼女の葛藤。過去でも未来でもなく、ただ目の前に…崇高さと共に見え隠れする孤独。全てをかき消すかのような独白。始まりそうで始まらない会話。たった一日の中に醸し出す余白が見事。

どこかで見たような居酒屋、どこかで見かけた2人組など、ホン・サンス監督の過去作とのつながりも楽しめるところも良かったなあ。また見返したくなる。

⑧バビ・ヤール

淡々と映像を流し、最後にガツンと突きつける衝撃。最後に差し込まれる現実を目にし、それまでの映像が一貫して伝えようとしていたことが見えてくる面白さ。ただ1941年のユダヤ人大量虐殺を描くのではなく、ソ連、ドイツ、ソ連。翻弄される群衆とその奥にある人間性を映し出す。

1941年のユダヤ人大量虐殺を主軸にしながらも変わらずセルゲイ・ロズニツァの視点は群衆に注がれているような気がする。ソ連からドイツに占領され、解放者と歓迎する街の人々。その後再びソ連が侵攻すると連邦国として共通の敵を撃とう唱えるソ連軍を歓迎、終戦後は公開処刑に群がる。

何より本作が突きつけるのは抵抗が起きることもなく多くのユダヤ人が連行され、終戦後何年も大量虐殺の歴史は抹殺されていたという事実。戦後に生まれたロズニツァらの世代はまさに歴史が抹消されていたことを知る、知って衝撃を受けた世代とも言えるかもしれない。

⑨アトランティス

覚悟は決めている、ここが生きる場所だと。2025年、ロシアとの戦争後のウクライナという近未来のディストピア。2019年制作。未来を予期していたのかと思うほどの内容が怖い。米企業に見放され失業、地雷が埋められ、環境汚染と進む中過去と向き合い生きようとする人々。

⑩フランス

ジャーナリストのフランス。彼女にとってインタビューは数字を取るためであり内実には興味がない。平然とカメラワークを指示し、自分のアップにこだわる。そんな彼女がとある事件によりカメラの前で見せた涙。恥であった泣く姿も映すことを厭わなくなる。

肥大化しすぎた自己愛を利用され皆の注目を浴びていることをどこかで理解しているが彼女は単なる踊らされている演者ではない、能力のある制作者でもある。しかしメディアが持つ責任と向き合わずにいた彼女は事件や不幸を経て自分に向けられる視線に恐怖しながらも向き合っていこうとする。

フランスを通して現代のフランス社会を内包し、ニュースメディアというものが向き合うべきものも炙り出す。同時にその視線は映画というメディアにも向いている。ブリュノ・デュモン監督作は初鑑賞だが、本当にたまげた…まさかの人へのインタビューから始まる冒頭など時折挟まれるコミカルさもgood!


偏愛枠

X エックス

ミア・ゴスの全てがつまっているといっても過言ではないほど全てにおいて素晴らしかった。他にはない何かがあると思わせる存在感。私らしくない道は許さないと、言い放つ姿もサロペットだけ身に纏った姿も何もかも最高でした。本作は色んな意味で偏愛枠です。


俳優賞

アナマリア・ヴァルトロメイ『あのこと』

ダリオ・アルジェント『VORTEX』

ギャスパー・ノエが老いをテーマに描いたらそうなるか…という。意地の悪い見せ方ややたら長い長回し。俯瞰の視点は『エンターザボイド』を彷彿させる。『愛、アムール』なども頭に浮かぶがまさしくノエの映画。そんなことよりダリオ・アルジェント御大がちょっと可愛すぎ。

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