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年間ベスト10〜2021〜

2021年の年間ベストまとめ。
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年間ベスト

①春江水暖 しゅんこうすいだん

年老いた母、4人の兄弟、その子…都市開発に置いていかれた小さな川沿いの街。時代と共に変わりゆくもの、変わらないもの。日常の小さな渦も長い人生の中で流れ、移ろいゆく。四季の移ろいを山水画のように切り取る美しさ。鑑賞後の余韻を上手く言葉にできない。

家族や伝統、そういうしがらみをどこかで面倒だと思っていた。新しい時代を生きているのにそんなことに雁字搦めにされたくないと。長い歴史の流れの中に生きている、私も壮大な流れの中にいることを忘れていた。何を受け継ぎ、何を伝えていくべきなのか、今一度ふと立ち止まってみるべきかも。

②ハイゼ家 百年

私的な家族の歴史をドイツの街並みと朗読で紡いでいく。激動の時代を生きた人々の鼓動がいつしか家族の枠組みをこえ、街並みに息づく壮大な物語を感じさせる。暗い影も記憶も受け入れ、息づく土地が次第に国を形作る。何か大きなものに自分自身も包まれているような感覚を覚えた。

映画を見て、ただただ壮大な物語に圧倒され、包み込まれるような不思議な感覚に。面白い、感動したではなく……その感覚を上手く言葉に出来たら良いのだけれど。

③夏時間

祖父が住む父の実家で夏の間だけ暮らすことになった姉弟。親の離婚のこと、学校のこと、言いたいのに言えなくて押し込められた思春期の繊細な心。いつかの夏休みを想起させるような、懐かしくてゆったりとした時間が流れ、どこまでも私的な時間なのに心が揺さぶられる。

本作は姉オクジュと弟ドンジュの話であると共に父と叔母の兄妹の話でもある。未来と過去が交錯しているような不思議な空間が漂っているところも面白い。またQ&Aで監督が言っていたが、祖父の家は実際に老夫婦が暮らしていた家を使ったそう。70年代頃に一般的であったという家の作りも面白い。

④シンプルな情熱

確かにパッションがあり、どうしようもなくただ愛に生きる姿は共感できるものとは違う。しかし、どこか淡々と自分自身を捉えているような、地に足のついた情熱という不思議さ。ただ情熱的なねっとりした大人の恋愛ではないリアリティがとても良い。エロティックな映画と消費されてしまうのは勿体ない。

⑤聖なる犯罪者

少年院から仮出所した少年の、生きるための嘘が信念へと変わり、人々の眼差しが少年のアイデンティティをも変えてしまう。一方で田舎の町の心に巣食う悪魔を飼い殺し、沈黙することで聖人であろうとする人々。絶対的な何かに縋って思考停止してしまう怖さ。社会風刺と社会の闇を突きつける。

とにかくダニエル役を演じたbartosz bieleniaが素晴らしい!その場を切り抜けようとする人間味溢れた少年の表情を見せ、時には心酔してしまうほどカリスマ性溢れた聖職者の表情を見せる。本当の彼とは…と怖くなる一方で、等身大の若者のようでもあり何とも魅力的。

⑥逃げた女

お馴染みの反復、ズームアップで、キム・ミニ主演だが…あれ?と、少し違うことに気付く。ホン・サンス監督は本作でキム・ミニの手を離し1人で歩かせているのだ。話の主軸がキム・ミニのようで違い彼女は受け手にもなる。監督の言葉を語るのではなく観客に解釈を委ねる余白が良い。

⑦水を抱く女

破壊と再構築を繰り返す現代のベルリンの街を舞台にウンディーネの神話を描く。愛に溺れ、疑い、掴もうとしたものの零れ落ちてしまう。愛憎入り交じる彼女の心は掴みきれず、男の心に巣食う幻想となる。どこまでも美しく幻想的で物悲しい愛の物語。

⑧DAU.退行

ソ連の全体主義を再現することで見えてくるものに私自身が興味があり挑んだ6時間9分。行き過ぎた全体主義が生み出したナショナリズムという宗教を前に飲んだくれ道化と化す人々。そしてナショナリズムが生んだモンスターが野に放たれていく。腐敗と狂気に蝕まれ退行し獣と化す人間……。

全体主義とは何だったのか。繁栄をもたらしたのか、それとも見せかけだったのか。誰もがもはや分からないのかもしれない。正しい、間違いではなく見つめ直すことで全体主義が向かった先、つまり現代の社会のあり方が見えてくるのでは。私はこのプロジェクトを通して見届けたい。

⑨1秒先の彼女

ワンテンポ早い彼女とワンテンポ遅い彼の不器用で遠回りすぎる恋。気持ち悪いと感じる危うさもありながら、それを上回るピュアでファンタジックな世界観が良い。

⑩チャンシルさんには福が多いね

長年プロデューサーとして共にやって来た監督が急逝、突如全てを失う。何が残っているのか、今まで仕事に捧げてきたのは無駄だったのかと呆然とするチャンシルさん。恋をしてみた、でも1人だった。痛さもほろ苦さも立ち向かう気力はないけど受け止める懐はある。

泣く時はいつだって1人だったチャンシルさん。(正確には謎の妖精さんと一緒かな)1人で泣いてみても朗らかに笑ってみせ、人の世話をやく働き者のチャンシルさん。実際は福が多いのか疑問なところだが、チャンシルさんの笑顔には福が溢れていて可愛かった。



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