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年間ベスト10〜2019〜

2019年の年間ベストまとめ。
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殿堂入り

ソローキンの見た桜

日露戦争下、愛媛県松山市にあった捕虜収容所を舞台にロシア兵と看護婦の純愛。美しい松山の自然と日露それぞれよ良さが上手く組み合わさった美しい物語。そして今なお日露を結ぶ架け橋という意味でも忘れてはいけない映画でもある。

兎にも角にも2人の美しい純愛が良いのだが、条約改正に躍起になる日本軍とロシア革命を前に不穏なロシアの様子が描けていた点、素朴な日本の良さが感じられる点等々非常に好感。

年間ベスト

①サスペリア

丁寧に構築されたとんでもない変態映画。いやはや大好きです。確かにサスペリアだが前作とは全く違う。良くも悪くもルカ監督がホラーに不慣れだったように思う。ホラーの定石にはまりすぎていなかったのは良かったけれど、散りばめられたもの一つ一つを紐解いて行こうとすると真面目すぎたような気もしてしまう。

ただ全てを網羅するほどの圧倒的な世界観、サスペリアという大作を自分のものにし見事に新たなとんでもないものを作り上げたルカ監督の度胸と挑戦心にはあっぱれ。

②COLD WAR

伝統も芸術も祖国のためのもの。自由を追い求めると同時に失うことを恐れ、時代の大きな波に飲まれつつも、ただ愛のために生き、愛を信じ続けた恋人たちへ送る人生の讃歌。モノクロの世界が彩る2人の世界観、音楽に震えた。これは素晴らしい。好き。

しかもこの当時の祖国はポーランドではなく、ソ連に押し付けられた祖国なんですよね。ポーランドの歴史にそんなに詳しいわけではないが、国として出来上がったのもヨーロッパの大国に比べれば後だし、国ができたもののドイツに侵略されその後はソ連のもと共産主義国家に組み込まれてしまう。

彼らのナショナリズム、国に対する思いというのは並々ならぬものを感じるし、だからこそポーランドの映画が好きなところもある。そして北欧独特の映像を通しても歌わるような冷たさ、寒さがとても好き。

③イングランド・イズ・マイン

モリッシーになる前のマンチェスターのスティーブンの話であり、いつかの、今の、腐ってる僕。私。あなたの物語。僕を必要としていない世界で僕は生きられない。でも結局生きているんだなあ。

④CLIMAX

頭がおかしくなるような映像を見せつけておきながらあくまで観客であり、俺の映画を、哲学を見届けていろと言われてるかのよう。そして長ったらしいインタビューにもしっかりと布石をひき、カオスのような映画に思えるもの全てが整合されており、映画としての完成度の高さに震えた。

⑤SHADOW 影武者

映像美、見せ方全てが追求された素晴らしき芸術映画。静があるからこそ動が引き立ち、囲碁のように攻め合い、引き合う陰と陽。最後の一手を決めるのは誰で、捨て駒となるのは誰なのか。また女性陣が良い動きをしている。想像以上でした。好き!

⑥ジュリアン

衝撃的な映画。たらればの話をしても仕方ない。なるべくしてなった結末。日常に潜む音にこんなにハラハラさせられるなんて。特に印象的だったのは車のシートベルト不装着に対してのアラーム音。誰に対して、何に対してのアラーム音だったのだろう。

両親の離婚調停の判決で隔週で父親の元に行かなくてはならなくなったジュリアンの視点を中心に描いているが、必死になってすぐ分かるような嘘をつき続けるジュリアンが苦しくて仕方なかった。また姉のパーティのシーンも印象的。彼女は伝えられたのだろうか、彼氏に、母親に。

改めてDV問題の解決の難しさ、家族間にどこまで他人が介入出来るのか、考えさせられる。子供を悪戯に虐める親もいるが愛があるのに自身をコントロール出来ないジュリアンの父親のような人物もいる。暴力は日常に潜んでいるのだ。1歩間違えばすぐ。

⑦マイ・エンジェル

愛が分からなくて、ママしかいないから。ママだけが全てだから。ママみたいにお化粧して、ママみたいにお酒を飲んで…1人は嫌だ。ママに愛されたかった。好きだから一緒にいたい。その好きでさえ伝え方が分からない。子供の切実な思いがひたすらに辛かった。

その一方で、自分勝手で痛々しくて駄目な自分を変える気もなく、自分の都合で男にすがりつく母親。マリオン・コティヤールじゃなかったら大嫌いだからな、こんな女!そして助けを求めている小さな女の子に対して戸惑うフリオ。大人はいつだって子供のサインに鈍感だ。

⑧さよなら、退屈なレオニー

家族にも友達にも何もかもに嫌気がさし、イラついて、ぶつかって。自分が何をしたいのかも分からない。冷めた目で世界を見ている自分も嫌。大きな変化なんて訪れないけれど見えていたはずの世界は変わりうるし、私も大人になっていく。うん。好き。

⑨アマンダと僕

大切な人を亡くし、取り残されてしまった青年と少女。まるで大きな子供と小さな子供のような二人は喪失感対しどう向き合えば良いのか戸惑いつつも少しずつ向き合っていく。些細なショット、それぞれの表情にはっとさせられる。

重く、社会的な題材を取り扱いつつ、喪失感を抱えた人々の弱さ、強さを優しく丁寧に描く姿勢はどこか爽やかで心地良ささえ感じる。またステイシーマーティンが等身大の女性の繊細さを演じていて流石だなと思いつつこういう役は珍しいので新たな一面が見られたような嬉しさも。

⑩アダムスアップル

「神は試練を与えて試しているのだ、全ては悪魔の仕業だ。神様は私を愛してくれている」

「神に愛されているというなら証明してみせろ、と悪魔が囁く」

本当に試されているのか、信じれば報われるのか?自分の根底が揺らぎ出す…全てはそう。神のみぞ知る。

ヨブ記をベースにしたブラック・ユーモアたっぷりの快作。一見宗教的な映画に思えるし、確かにそうなのだが根底には普遍的な問題があるように感じる。りんごの木の意味合いなど考えさせらるし、シンプルに映画としても面白いという。これはすばらしいよ。

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