【本・映画感想レビュー】インヒアレント・ヴァイス 欠陥だらけのトリップ世界へようこそ
数年前映画で見た。
当時、なんのこっちゃわからんかったです。でもかっこいい、、痺れました。
そんな不思議な世界について、原作を読んだので、この記事を執筆します。
1.内在された欠陥(インヒアレント・ヴァイス)
インヒアレント・ヴァイスとは、保険用語で避けられない内在された瑕疵のことを言う。
作中に登場するドジャースタジアムは先住民の土地を奪って作ったスタジアム。に代表されるよう、アメリカ社会はインヒアレント・ヴァイスだらけ。
60年代のアメリカカウンターカルチャー:旧態の権威主義に対抗することで創出されたポップカルチャーやヒッピー文化、サブカルチャーはアメリカの欠陥を露わにした。
ドックとシャスタの恋愛劇を眺め、様々な欠陥が表面化されていることを感じる。
どこか悲しさが漂うそんな世界。
ジャケがかっこいい。
2.小説版。トリップ体験(酩酊感?)
まず、例を紹介します。
住所はトーランス郊外の〜〜飛行場の中間あたり。半地下と中二階がある住宅で〜〜脇にはコショウの木が、裏手にはユーカリの木が植えられている。〜日本のセダンが見えていて〜〜(中略)〜野菜のスープストックがオーブンでコトコト煮込まれていた。パティオではハチドリがブーゲンビリアや〜〜静止している。
この描写10行程度。
はい。まぁここまで長い風景描写はなかなか見かけない。
ぼーっと読んでしまえばそれまでだが、一つずつ想像していくのがとても興味深い。五感全てを駆使される。
風景描写をここまで膨大な情報量で書くものだから、破綻しかけない質量があるのではないかと感じかねないが、全くそうではない。
むしろ、不思議とぼんやり、しんみりとさせられる。グルーヴィ。
ドックとシャスタが雨の中、ドラッグを探しにいく絵葉書を眺めるシーンは素晴らしかったです。
一つずつ少しずつコンテクストを拾って、ぼんやり情景を浮かべていくのはなかなかの至福体験です。
伏線を張って回収していくのとは異なって
点と点がぼんやりと繋がっていく、、ぼんやりと煙のように形を作って、そしてどこかへ消えていくという不思議なトリップ体験をもたらす。
(読むのには沢山の時間をかけてしまう、変態的な文章です、、、、)
近現代アメリカに対する教養があればあるほど、読み込める本作であるが
自分みたいな日本人には限界があったのかも。
3.映画版。トリップ体験(洒落め?)
この映像化に成功しているのはPTAことポールトーマスアンダーソン。
彼が作り出す映像には吸い込まれてしまう。奇妙でも緊張感が漂う独特の雰囲気はまさに原作の忠実な再現だと思う。
オープニング、ネオン管の文字のタイトルに、CANの曲が流れるあのシーンで心を鷲掴み。
そう、曲の使い方については小説と映画では異なっており、明るい原作と比べて、ジョニーグリーンウッドの不思議なトーンが特徴的。
ドックという主人公像の描き方として、味があって、カリスマ性がありつつもどこか陰のオーラがあるホアキンフェニックスのキャスティングはとても良かったです。
魅力的で不思議なシーンが展開されていく。ストーリーは正直どうでもいい。ただただシーンを見ていたい。そして、この世界を見続けていたい。そんな気持ちにされました。
映画は本と比較して圧縮されているから、見やすい。
個人的には原作よりも映画の方が好きです。
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