[エッセイ] 棘だらけの枝の赤い実
蝉の抜け殻も、ぬいぐるみみたいに綿を詰めればちゃんと動く
それから、起動するためのエンジンを詰めればちゃんと動く
死んでいるのか、生きているのか?
そんな疑問はいつまでも消すことは出来なくとも存在はしているし
エンジンは好調だ
肉のないすき焼き
主食のない食事
パンのないサンドイッチ
あるべきものがない人生を生きてきた私は蝉の抜け殻
殻だけで動く奇跡の人と言ってもいいかな?
そんな私にはどうしたって出来ないことがある
それは、椅子取りゲームで椅子を取ること
別に、誰かを蹴落としてまで椅子を取れないなんて優しくか弱い理由じゃない
簡単に言うなら椅子取りゲームをする理由がわからないのだ
椅子取りゲームをしてまで、ポジションを取る理由がわからない
それが理由
人間は社会性の動物で
だからこそ、群れへの帰属意識がある
でも、それは自分が生き残りたいと思った時にだけ発動するもの
生き残りたいと言う思いがない動物は、そもそも群れへの帰属意識さえ持てない
椅子取りゲームは、ポジションを必要とする人にしか通用しないゲームで
私には、この生き残りたいと言う生存欲求がないから椅子取りゲームをする理由が見当たらないのだ
こんな風に生きているのは、あるべき物がない環境で育ち
普通はないであろうものが、ある環境で育ったから
逆さまの人生で社会に属すると言うことさえ知らずに
ただただ、生きたいとそう思える理由を探し生きて来た
蝉の抜け殻は本体が戻ってくれれば、この冷え切った視点を抜け出して
自分の命はもう一度輝けるのかもしれないと
私はいつまでも死んでいるような気でいたのだけど
ある時こんなことを言われた
ーあなたはそんな辛い経験をしている様にはとても見えかったの
そうなのね…あなたにはあったのね…と
これは、私が自分の心の中の症状の名前を探していた頃に出会ったカウンセラーさんの言葉
ガラリと扉を開けた私への第一印象が
とても明るい雰囲気がしたのでそんな風には見えなったのだと話してくれた
その先生に、人生の出来事を話して行くうちに言われたこの言葉は
蝉の抜け殻だった自分がいかにして生きて来たのかを気づかせてくれた
私の人生にあったものを
私はこんな生き方だから知っていることがある
消えかけの蝋燭に、もう一度火を着ける方法を
生きて行くための原動力を
そして、抜け殻でも生きていける人生において大切なものを
そう、それは人間愛と好奇心だ
私は、運がいい
そう思うのは、こんな境遇を背負っていても
人に恵まれてきたとそう思っているから
そう思うのも、人の悪い部分も嫌と言うほど見てきたからと言うこともあるし
まっすぐ打ったボールが、まっすぐ帰ってきてくれるような関わりを運よく
人生で何度か体験してきたからと言うこともある
その時ハートに届いた何かがきっと私を生かしているのだと今も思っている
そして、今の私を生かすもの
それは好奇心から来る野望だ
引き出しにしまっている野望は、少しづつ叶えては増えてを繰り返して
なくなることはない
あんなこともやってみたい
こんなこともやってみたい
そう思いながら、色々なことを体験して来た
子供の頃からやって見たかった刺繍に棒編みを取得することから
バイクに乗ること
楽器を演奏することに、ひとりで旅をすること
ひとりでできる事の可能性を広げることも
まだまだ、遠くに行きたくて
まだまだ、何かを奏でてみたくて
まだまだ、何かをできる様になりたい
そして、知らない自分を見てみたい
もっともっと、自分の小さな価値観の中から飛び出してみたくて
とにかく、したことのない体験をして見たことない景色を見て価値観をひっくり返されたいのだ
知りたい、もっと体験したい
もっと、もっと
その子供じみた思いはひとりぼっちの人生で尽きたことがない
小さな自転車に乗ってひとり、猫をカゴに入れて走っていた小さな女の子
今も変わらず、こんな願いと共にひとり走っている
私は果たして、これからどんな景色を見て
どんな経験をして行くのだろう
そして、蝉の抜け殻に何を詰めて行くのだろう?
荷物の少ない旅路で、好奇心という野望を火種に生きている
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