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徳川天一坊俥読みレポート 四日目
神田阿久鯉、神田伯山、神田春陽の俥読み全五日間に参加している。四日目はクライマックスだったかもしれない。迫力満点のやりとり、怒涛の伏線回収に引き込まれた。
開口一番「越の海勇蔵 稽古相撲」
二日目と三日目は青之丞と梅之丞がそれぞれ来て、「雷電の初土俵」「海賊退治」をそれぞれ十分で読んだ。そして四日目は梅之丞が越の海を読んだ。二日目に雷電や谷風が出てくる話を聴いたところなのでつながってよかった。そして、越の海は若之丞が読むのを二回聴いたことがある。やっぱり兄弟子うまいな、と思うと同時に、梅之丞は谷風や立行司の役が似合うが、若之丞は越の海勇蔵が似合うなと思った。梅之丞の明るい発声が好きなので二日続けて聴けて嬉しかった。
「網代問答」春陽
春陽さんは昨日は出番がなく、横浜に野球を観に行ったとのことで、天一坊がちらついて野球に集中できなかったという話に、面白がらせようと思って言ったのだろうけど、やはり芸に生きる人はすごいと思った。あとは天一坊の存在感があまりにも大きいということか。
大岡越前守役宅に呼び出された天一坊ら四名は取り調べを受ける。越前守から繰り出される質問一つ一つに、伊賀之亮はその弁舌でもって破綻なく答えていく。越前守が切り札として、なぜ上野の宮様と同じ網代の駕籠を使うのかと問うたが、伊賀之亮は逆に越前守は上野の宮様が網代の駕籠を使う理由をご存知かと訊いた。さすがの越前守も言葉に詰まると、伊賀之亮はその由来を滔々と語る。咎を見いだせなかった越前守は天一坊たちに失礼をつかまつったと頭を下げて見送るが、次の手を考えておりすぐに病気届を出すとさらなる調べに向かう。束の間の祝杯を上げる天一坊らの屋敷から、二丁の駕籠が東海道を走り抜けるのが見えた。
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落ち着き払った二人の知恵者のやりとりは、互いに冷静ながらも次第に畳み掛けるような勢いを得ていってその白熱ぶりが見事だった。越前守は畔倉とかでは抜かりない人物という印象が強く、そんな越前守が返答に窮するというのはどきどきするし、人間らしさ、主人公らしさを感じた。あまりに伊賀之亮の頭が切れるから、この人がいなかったら天一坊たちどうするつもりだったのだろうと思ったし、伊賀之亮はもっとまともな人生を送れただろうにと思わずにいられなかった。
「紀州調べ」阿久鯉
越前守は次の手として江戸にある加納将監の屋敷を訪れる。加納は既に死んでおり息子が応対したが、息子はあまり関わり合いにならないほうがよいと考えて二十二、三年前のことが分かる者は全員死んだと伝えてしまう。では母上はいかがかと越前守が問うと、母は生きているが耄碌していると答える。それでも一目会いたいと越前守が伝えると、息子は母つまり加納将監の妻である英昌院にこのことを伝えに行く。実際はぴんぴんしている英昌院は越前守に会うことにする。かつての女中、沢野のことを訊かれると、覚えているが生まれについては分からない、ただ働き手を紹介した者のところにある台帳には記してあるはずだと言った。これを以て、越前守は白石次右衛門と吉田三五郎を紀州へと送る。
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女性の登場が少ない中で御三家の家来の妻を阿久鯉さんが演じるのを観れたのはとても嬉しかった。子がなく、跡継ぎは夫が女中に手を付けて生まれた子だから馬が合わないということだったのだが、身分が高くて上品な感じと胸の底にある血の繋がらない息子への感情が同居しているのが表現されていてすごく説得力があった。なんというか、本物を見ているという感覚をとても強く感じた。また、身分が高いからというのが大いにあるとは思うが、教養ある聡明な人物として描かれているのも良いなと思った。
「紀州調べ第一日」伯山
白石と吉田の二名は紀州に急ぎ向かい、普通は四日かかるところ三日と半日で到着した。早速調べを始めると、頼りにしていた台帳は八年前の火事で焼けたと分かり一瞬絶望したが、沢野と仲が良かった女中の菊乃井が見つかり、話を聞くことができた。そして沢野の故郷が判明し、沢野とご落胤が葬られている寺を訪れる。
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仲入り前の二席を聴いたらこの一席は馬鹿馬鹿しくて台本を変えたのではないかと思われると言っていたが、確かに台本変えているのではと思ってしまった。田舎者たちが江戸町奉行の調べということでビビりまくり、情報提供すれば十両もらえるというので色めき立つのがとても可笑しく表現されていて楽しかった。
「紀州調べ第二日」阿久鯉
二日目に白石と吉田は改行の故郷である隣村を訪れる。そこでは名主と話して、おさんの死と改行の師匠である修験者の死の顛末を聞くことができた。そして極めつけには改行が賊に襲われたと見せかけて残した、切り裂かれて犬の血がつけられた衣類が手に入った。証拠を揃えた白石たちは急ぎ江戸へと帰ることになるが、越前守の切腹が迫っていた。
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初日の伏線が怒涛の勢いで回収されていく。うまく繕ったつもりでも、やはり悪事というのはどこかで綻んで日の下に晒されてしまうのだなと感心した。白石たちが越前守の指示通り金に糸目をつけずに捜査に励んだおかげで見事に証拠が揃ったので安堵したのだが、すると今度は越前守が危機に晒されているという白石たちは知らない情報を付け加えられたのでまた新たなヒリヒリ感が出てきた。最終日まで滑らかに繋ぐ展開が本当にうまくできている。
四日目を終えて
釈台や張扇といった道具はあるものの、ほぼ身一つで空間に一つの世界を立ち昇らせるというのはすごい芸能だと改めて体感させられた。連続した平日五日間の夜を講談に捧げるというのは体力的につらいものがあるが、それでも講談師たちが作る世界に飲み込まれる時間というのは幸せなものだなと思った。千穐楽にも心をときめかせている。