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第一回日本講談協会フェス!!に行ってきた!!

2024年12月8日、東京はイイノホールにて第一回日本講談協会フェス!!なる渋さとハイテンションが共存した名前のフェスが開催された。第一部が11時開演、第二部が14時半開演、第三部が18時開演で、各部約3時間ずつ講談が読まれた。豪華な会なのでとても楽しみにしていたけど、長時間なので聴くほうも闘いで、全て聴くことはできなかった。でも出入り自由なところがフェスっぽくてマイペースに楽しめたのはよかったと思う。そんな中で印象的だったことや、たくさん聴いたからこそ気づいたことを書き記していきたい。

開口一番

開口一番は神田松鯉の末弟である松樹だった。堂々と登場して、第一部のテーマは「おんなフェス!」なのに男ですと言って笑わせてから、修羅場読みが続く展開を読んだ。初っ端なのでこちらも講談モードにまだ入り切れておらず、なかなか内容を掴みづらかったが、声はよく出ていたし確かに上手だなと思った。実際はとても緊張していたらしく、間違えて草履を履いたまま舞台に上がりそうになって姉弟子に引き留められるという展開があったらしい。松樹は、松鯉が名付けたときのエピソードを神田伯山がラジオや高座で面白く語ったりしたのもあって注目されていると思う。前座が出てくるとき、普通聴く側はそれほど高いパフォーマンスを期待しているわけではなく、どれほどのものかなと思っているに過ぎないのだけど、それでも高名な講談師たちを聴きに来たマニアな客たちを前にして緊張しないはずがない。松樹の場合、名付けエピソードのおかげで微妙に注目されてもいる。その中で堂々と見えるように振舞うことができていたのはすごいと思った。これからの成長を楽しみに思う。

中島みゆき

第一部の中でもう一人印象的だったのは神田蘭である。「中島みゆき名曲・時代 誕生秘話」という創作講談で、公認ではないけど中島みゆき本人のラジオなどの情報から構成していてほぼ事実であり、止められるまでは読み続けようと思っているとのことだった。中島みゆきの幼少の頃からのエピソードが盛り込まれ、ところどころに名曲たちが出てくる。歌うということに対して彼女がどう向き合っていくかの過程が分かるのが興味深く、その過程が描かれるからこそ、名曲たちが生まれたことに納得できるしその重みを感じた。蘭さんの中島みゆきへの愛もとても伝わってきた。

松麻呂の成長への感動

第二部には三人目に神田松麻呂が出てきた。私にとっては数年前の前座時代に坊主頭の姿を一度見て以来だった。新宿末広亭で夜席の開口一番で登場して、昼席が押してスタートが遅れたからか、とても短い時間で話さなければならないという状況だった。すごい勢いで宮本武蔵か何かをやって大急ぎで座布団とかを整えて去っていったという記憶がある。あのときは台本通りやっている感じが強くて、時間の都合上早口なのも相まって聴きにくい印象が強かった。二つ目に昇進して絹の着物を着こなすようになって、恰幅もよくなった松麻呂はあの頃とは全然違っていた。台本に沿ってはいるが、こちらに語りかけるような、聴かせたい分からせたいという気持ちが全面に出た高座だった。途中、台本では一文でさらっと描かれているところを、松麻呂自身が実際その話の舞台に赴いたらどうだったかを説明してくれたのもよかった。普通に台本通り読んでいるときも、伝えたいという気持ちが身振りや滑舌に表れていてとても聴きやすかった。この日いちばん感動した。

前回の徳川天一坊俥読みのとき、神田伯山はどれだけ一人で練習しても、お客さんの前でやってみたら尺が全然違ってくると語っていた。それはお客さんを前にするとその反応によって無意識に語り方や説明の仕方が変わってくるからなのだという。今回のフェスで色々な人を見て思ったのは、一人で練習するときと全く同じようにやっているのだろうなと感じる講釈師と、お客さんがいると変わるのだろうなと感じる講釈師がいるということだ。聴くほうとしては後者のほうが話に入っていきやすいし、面白いと感じる。先ほどの松麻呂の例のように、こちらに聴かせたいという気持ちが客席まで伝わってくるからだと思う。芸の世界のすごさを素人なりに改めて思った。

徳川天一坊アゲイン

第三部は徳川天一坊フェスだった。夏の俥読みで一度聴いたけど、今回は5人で読むということで違いを比べられる面白さがあるのではないかと期待して行った。どうしても時間の都合で省略しなければならない部分もあるし、夏にやったときのほうが説明が親切だったとも感じたが、改めて面白い話だなと思った。伯山は「天一坊の生い立ち」を読んだ。伯山が舞台に出てきたとき、空気が少しだけピリッとなる感じがして、やはり何か他の人とは違うものを持っている気がした。客であるこちら側も試されている感じがするのだ。前回は神田阿久鯉が読んで、克明な描写や海を渡るシーンのダイナミックさに聞き惚れたものだった。伯山バージョンは比較的淡々として聞こえたが、少年が悪に染まっていくさま、恐ろしいほどの強運で生き残っていくさまが見事に描かれていた。

続きの「伊予の山中」と「天中坊日真」の2話は阿久鯉がぎゅっと縮めて読んだ。省略されている部分は確かにあったが、ちゃんとエッセンスが伝わるようになっていた。語りの密度をコントロールできるのはさすがの腕だとも思ったし、講釈の面白いところだとも思った。阿久鯉さんは間の使い方が抜群にうまくて、ユーモラスな表現が特に光っている。本当に聴きやすくて面白いと感じる。

神田愛山は「伊賀亮加担」を読んだ。詐欺集団にブレーンがつくという重要なシーンだ。伊賀亮が来ることで天一坊たちの間に加わる緊張感が表現されていた。次の「伊賀亮と土岐丹後」は神田鯉風が読んだ。鯉風さんは初めて見たのだが、よく通るとてもいい声をしていた。伊賀亮の策略VS大坂城代という構図で、駆け引きのヒリヒリ感が伝わってきた。

最後の神田松鯉はやはりすごかった。講談が名人芸であるというのがよく分かる。滑舌がすごく良いというわけではないと思うのだけど、語りがとても聴きやすいのだ。大岡越前が登場して、天一坊らを見てその悪相からご落胤であることを疑い、再度の取り調べを要求するという重要な場面が、とても丁寧に描かれていた。

まとめ

第一回日本講談協会フェス!!に参加してみて、やはり一日中講談を聴くというのはなかなか大変だった。集中力を持続させてじっくりと物語を楽しむなら、普通の講談会のほうがよっぽど良いと思う。あるいは、直前に知ったのだけど今回は配信もあったから、配信で自分のペースで見たほうが集中を切らしても休めばいいし、ゆっくり楽しめたのではないかと思った。でも、会場に行けばうちわがもらえたり豪華な顔ぶれを楽しめたり、朝から晩までお祭り気分を味わいつつ自由に過ごせるのは他にはない機会で楽しかった。書いてきた通り、たくさん聴いたからこその発見もあったから、聴き比べることの重要さがよく分かった。あと、最後にどうでもいい感想だけど、普通の野外音楽フェスは夏に開催するのが暑さのせいで大変になってきているから、空調の効いたホールでやるこういう回こそ夏にやると涼しくて良いのではないかと思う。

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