徳川天一坊俥読みレポート 三日目
「越前閉門」伯山
大岡越前守は徳川天一坊に悪相を見たこと、ご落胤と認められてほくそ笑んでいたことから再吟味すべきと訴え、もしも天一坊が真のご落胤だった際には切腹し領地を取り上げられ親族も同じ目に遭ったとしてもお上を恨むまいと申した。これを聞いた知恵者の松平伊豆守は面白くなく、取り合わなかった。翌日、越前守がまた伊豆守のところに行って再度訴えると、吉宗に取り次いでもらえることになった。しかし伊豆守の圧力で天一坊らの悪相やほくそ笑んでいたという根拠と、越前守の身命を捧げる覚悟については伝えられなかったため、吉宗は越前守が上役に背いたということで閉門を沙汰する。
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真に優秀な人であれば、目下の者の優秀さをも見抜き、論理的で優れた意見は考慮に入れるのではないかと思う。しかし下手に優秀でプライドの高い伊豆守はそれができなかった。老中という役職が偉すぎて意見されることに不慣れというのもあるとは思うけど。
「閉門破り」阿久鯉
閉門となると屋敷の外に出られず中に入ることもできないのだが、越前守は死人に扮して不浄門から外に出ることを決める。手下たちは中間に扮し、門番を言いくるめて無事に門を出ると、一行は茶屋に落ち着いて形を改め、小石川の水戸中納言を訪う。越前守が天下の一大事として天一坊を再吟味したい旨を語ると、水戸中納言は越前守が閉門の憂き目に遭ったのは取り次ぎの言が不十分だったからだと見破る。そして水戸中納言は明け六つに吉宗を訪れて越前守に再吟味を命ずることを約束する。
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出ることも入ることもできない閉門屋敷に越前守らは帰らなければならなくなるのだが、無事送り届ける役目を仰せつかった水戸中納言の家来の若者が、滑稽ながらも活躍していてよかった。すっとぼけた態度で閉門屋敷の門番を手懐けるところは痛快だった。
「水戸殿登城」伯山
越前守を帰した水戸中納言は、病に伏していたにもかかわらず登城の準備を急ぐ。早くしなければ越前守が自分の役目は終わったと切腹してしまうかもしれないからだ。まだ七つの刻なのに六つだと言い張って江戸城に向かうが、門番はさすがに早く開けるわけにはいかず真冬の早朝に門前で待たされることになる。六つになりいよいよ登城すると、吉宗に越前守の訴えを伝えた。理解した吉宗はすぐさま越前守に使いを遣り、将軍名代として再吟味を行うことを命じた。
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早くしなければ越前守が自刃するというのが共通認識なのがちょっと現代の感覚からは理解し難かったが、病床から飛び起きて必死に駆けつける水戸中納言の姿は希望を感じさせるものがあり感動した。
「天一坊呼び出し」阿久鯉
いよいよ越前守が天一坊を取り調べることになり、天一坊らは町奉行の屋敷に呼び出される。伊賀之亮は偽物と露見したことを半ば覚悟し、赤川大膳に対し屋敷でぞんざいな扱いを受けたら露見したと考えよ、丁寧な扱いを受けても露見したと考えよと説く。実際に行ってみると門番にはぞんざいに扱われ、次に控える者には丁重に扱われて赤川は戸惑う。ついに取り囲まれてしまい、抜刀しそうになるが、奉行屋敷での無礼でお縄になると伊賀之亮に言われたのを思い出して堪える。およそ将軍のご落胤を迎えるに相応しくない質素な座敷に通された四人は取り調べを受けることになる。
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最初はそうでもなかったのに、どんどん赤川が間抜けな人物になっていて藤井左京は影が薄くなってきている気がする。いよいよというところで翌日に持ち越すのは連続物を聴きに来ている感があって、うまく作られているなと思う。
三日目を終えて
いちばん疲れがくるのが三日目だが、この日は町人が出てこず役人ばかりのやりとりなので軽くないと伯山は冒頭で話していた。確かにお硬いやりとりが続いたが、越前守が水戸中納言に訴えを述べるところなどは、漢文調のいかめしい文言の中に必死な気持ちが切々と伝わってきた。
四日目からは調べに入るので、もうクライマックスかという感じがする。ありとあらゆる身分の者が活躍して破綻なく物語が収束していく美しい話であると聞いたから、あとの二日も楽しみに聴きたいと思う。
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