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地下に眠っていた過去、守り継がれている過去(泉岳寺散歩の記録)

タイムリーに記事を更新してみる。昨日7月13日は泉岳寺駅に初めて行ってみた。というのも、発掘現場の見学ができると聞いてのことだ。

埋蔵文化財発掘調査見学

気合いで早起きして10時に泉岳寺駅に降り立つ。雨予報だったが雨の気配はなく、しっかり照りつける太陽に目を細めながら見学会へと向かう。大通り沿いに歩いていると地下鉄のホーム拡張工事をしていてでかいクレーンが重そうなものを運んでいた。通り過ぎていくとそこも工事の壁がずっと続いていて、それが遺跡の工事地区であるようだった。壁が途切れたところに発掘調査見学会の看板があり、暑い中たくさんのスタッフの方々が案内していた。

かなり広い地面が既に掘られていて、石垣が見えた。地図を見ると、現在はJR線が通っていてビルもたくさんある泉岳寺駅の東側はかつては海だったようだ。発掘された石垣は明治時代の石積護岸とのことで、そこから手前側は海だったらしい。かつての海の上に立っているというのを視覚的に感じることができて面白い。この石積は形が比較的揃っているものが整然と積まれているエリアと、比較的不揃いなものが積まれているエリアがある。東京都埋蔵文化財センターの方の説明によると、こうなっている理由は分からないが、当時異なる担当者がそれぞれ北側、南側から築いていって、ぶつかったところで合流して繋げたという推測もできるとのことだった。

明治時代の陸地と石積
石積の下は海
写真の右側2/3ほどは比較的石の並びが不均一

石垣の石を近くで見ることもでき、石垣の断面も図解されていた。後ろに向かって細くなった形の石が壁に刺さるようにして並んでいるようだ。もう少し太さが続いていると思っていたので、こんなに細くなっているのは驚きだった。生き物の歯みたいだ。

奥のビルも工事中だ
思ったより四角錐に近い形状

発掘された出土品もたくさん並べられていて間近で見ることができた。明治時代なので目薬とか、割と身近なものが並んでいる。

ロート目薬の瓶、醤油瓶などなど
なかなかきれいな状態で残った陶器たち。蕎麦屋「永坂」は今もあるらしい

遺跡の近くには国史跡の高輪大木戸がある。今は少し石垣が残っている程度ですごさが分かりづらいが、旅人が江戸に出入りする重要な場所だったらしい。この周辺で物を運んだ牛の骨があったり、通行手形も見つかっている。書かれた字や印がしっかり見えてちょっと感動する。

骨!
木札がきれいに残っている

尿瓶やトイレがあったのも面白かった。

立派な尿瓶
絶対猫が落ちそうなトイレ。足を置く場所がある感じが懐かしい

かなり広い範囲において行われているこの発掘調査は、今後は明治時代の陸や石垣の下に眠る江戸時代の石垣まで掘り進めるらしい。できれば遺跡をそのまま残して屋根をつけて博物館にして保存してもらいたい。それで遺跡部分をガラス張りにして上を歩きながら観察できると楽しそうだ。でも都会のこの地ではそれはきっと難しい。当たり前だけど埋蔵文化センターはかなり丁寧に記録を取っているようだし、そこから研究が進んだらまたこうして紹介してもらいたいと思うし、場所を移してでも遺跡が見られる状態で保管されると嬉しいなと思う。いずれにしても、途中段階の発掘現場を一般に公開するというこのような機会を設けているのは素敵なことだしありがたく思った。

今回の公開範囲以外の発掘についても紹介されていた


泉岳寺

せっかく泉岳寺駅まで来たのだから、泉岳寺にも行ってみることにした。

山門
大石内蔵助良雄像
本堂前に線香の自販機があった。左の機械で点火する
吉良上野介の首を清めた井戸はそのまま残っている

恥ずかしながら、赤穂義士のことを知ったのはコロナ以降、講談を聴くようになってからだ。今は多少はそのストーリーが分かるが、四十七士というのがいまいちピンとこないというか、学校のクラスメイトの顔を思い浮かべるのと同じようにはいかない。墓所では一人300円を支払って線香を購入するシステムになっていた。線香は火を点けたもの数十本を竹筒に入れて渡される。慣れない量の線香に咳き込みながら一人ひとりの墓に線香を置いていく。戒名に「刃」とか「剱」とかが入っている人が多くて、武の香りが漂う。一つ一つの墓は小さくても、これだけの数の墓を回ることってそうそうないから不思議な感じがした。それぞれの名前と行年を読み上げながら線香を供えていくと、その若さに昔のこととはいえ心を抉られる感じがした。事件後も生き残ったであろう人もいて、彼のその後の何十年は、どれほど仲間たちへの想いを募らせたことだろうと想像した。

泉岳寺に行ってみて、講談や落語、歌舞伎から得られる息遣いの根拠を辿るというか、彼らの気配を感じることができた。そして、墓地にはガイドツアーで訪れる人や熱心に赤穂浪士の逸話について語っている人がいたりして賑わっていた。これだけ彼らに心惹かれる人々がいて、起こった過去の記憶を守っていこうという力が強烈に働いていることを感じた。

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