埋込み型現代を見る
最近行った2つの展示で古い作品をいじった作品群が面白かったので少し書いてみたい。
しりあがりさんとタイムトラブル
日比谷図書文化館1階で開催されている展示。日比谷音楽祭のついでに見に行ってみた。しりあがり寿さんが、江戸時代の版画をもとにその風景を何かに見立てたり、現代だとこうなるよなあという感じでパロディした作品が展示されていた。開催地が日比谷図書文化館というだけあって、パロディ元の版画も実物が隣に並べてあって比べやすかった。
日比谷図書文化館への行き方は色々あると思うけど、私は東京メトロの霞ヶ関駅から行った。その霞が関はビフォーアフターみたいなことになっていて、「江戸×東京タイムトラブル」とタイトルがつけられている。
国会議事堂が遠景をぶっつぶして、政治家たちが記者に囲まれ、デモ隊が押し寄せている。現代だったらこうでしょというのが描かれているのがおもしろポイントなのだけど、驚いたのは人物の配置が活かされていることだ。デモ隊は完全に描き足しているのだけど、画面中央に並ぶ4人がそのままの構図で政治家に描き換えられ、右手の行李を背負う人は台車で荷物を運ぶ人に書き換えられている。細かいところまで置き換えが丁寧になされていて、タイムトラベル感が出ているのが好きだなと思った。私たちは浮世絵を見るときに昔の絵として見るけど、このタイムトラベルに乗っかることで当時の人が浮世絵を見る感覚に近いものを感じることができている気がする。
深川万年橋下は、誇張して描かれた橋の向こうに富士山が見えるという構図だが、この橋が丸ごと高速道路の料金所に見立てられている。もともとある舟は料金所をくぐろうとしているようになり、描き加えられた柱の下には料金受付のおっちゃんが暇そうに座っていてすごく馴染んでいる。「シートベルトを忘れずに」のリアリティがすごい。料金表は単位が文になっていて江戸時代と現代が融合している。発想から細部のこだわりまで面白くてつい展示会場で声を上げて笑ってしまった。
青山悟 刺繍少年フォーエバー
目黒区美術館で行われた展示。ミシンでの刺繍で作られた作品たちが並んでいた。その中で、古い印刷物に直前刺繍した作品がいくつかあってこれも埋込み型現代だなあと思った。
座って刺繍あるいは編み物をする女性の写真。膝の上に製作中の大きな布があり、白黒で出力されたそれは上からカラフルな刺繍が施されて色彩を手に入れている。作者の青山さんはミシン作品を通して、機械によって手工業労働が奪われてきた問題などにフォーカスしたいらしく、まさに手仕事をしているかつての女性たちの生み出すものが、質感を伴ってグッと迫ってくるような感じがする。
次の作品は古い絵が収録された本のページに直接刺繍しているようだ。これも女性たちの刺繍する布の部分にカラフルな糸で刺繍が施されている。
面白いのは、画面左にミシンで刺繍する青山さん本人が描かれていること。ミシンだけでなく手元を照らすライトも違和感なく描き込まれていて、やはり布のところには刺繍がしてある。同じ空間に異なる時代がさも当たり前のように共存している。生活のために刺繍する人たちと表現のために刺繍する青山さんはやっていることの意味合いが違うのだろうけど、この女性たちの時代の延長線上に現代の青山さんがいるということを表しているようでもあるし、この紙に刺繍を施す青山さんというメタをも同画面に内包してしまっているという面白さもある。
これらの作品の他にも、古い人物画を細工して現代の有名人をオマージュした服装をさせて刺繍を施しているシリーズもあった。変えたい部分は上から紙を貼って描き込んでいるので、近くで見るとどこを改変したか分かって、長かったスカートがミニスカになったりしているのを見つけて楽しんだ。それらの作品も過去と現代が融合していて見ていて不思議な気分になった。
まとめ
2つの展覧会を通して、古い作品を活かしてそこに現代を埋め込むというタイプの芸術を堪能できた。パロディがちゃんと面白いものとして機能するって大事だと思う。作品たちを通してかつて生きた人たちを近くに感じられるのもこのタイプの作品の魅力だし、これらの作品を面白いと感じられる感覚を現代人とだから共有できるという楽しさがあったのもよかった。