珠玉の仕事紹介本3冊
就職したい転職したい。あるいは労働の日々の中でちょっと立ち止まってみたい。そんなときはこんな本がいいかもしれない。色々な仕事が見られたり、労働のリアルに迫っていたり、「仕事紹介本」という言い方がいいか分からないけど、肩肘張らずに「仕事」というものを考えられる本として好きな作品たちを並べてみたい。
この世にたやすい仕事はない
津村記久子さんの名作。名久井直子さんの装丁で、単行本は蛍光っぽいピンク、文庫版は青で書かれたゴシック体のシンプルな題字が素敵。ストーリーは、大学卒業後から長く続けた仕事を燃え尽きるようにして辞めてしまった主人公が、様々な仕事を経験していく話。「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」など、そうか言われてみれば誰かがその仕事をしているんだよな、と思うような仕事が出てくるのでおもしろい。真面目な主人公がそれらの仕事をしながら感じることが淡々と綴られていく。丁寧な筆致にリアリティがあってエッセイかと思ってしまうほどだ。仕事にはやりがいも必要だけど、大きなプレッシャーになってもいけないし、やっぱりどの仕事にも良し悪しがあって、向き合い方も一筋縄ではいかないよねというのを柔らかく語ってくれている感じがする。
ちくまさん
西村ツチカさんのコミック。月刊誌『ちくま』のために描いたイラストが集められたカラフルな本。これも名久井直子さんの装丁だ。それぞれのイラストが「ちくまさん」の経験する仕事を描いているのだが、幾何学的な図像と有機物がうまく絡み合うことで不思議な躍動感が生まれている。各表紙イラストにまつわる8コマ漫画もついていて、その世界観にハッとさせられる。「雪明かりを作るひと」「太陽風で洗濯物を干したいひと」「雲の上を案内するひと」など、ちょっとファンタジックだったりするところがすてき。それぞれのイラストに対する想いも巻末に綴られていて、創作するひとの頭の中を覗けるという楽しみもある。さっきカラフルと書いたけど、各イラストに使われる色数はある程度絞られていてその色合いがとても心をくすぐるものがあっていつまでも見ていられる。
郵便局
チャールズ・ブコウスキーの作。光文社古典新訳文庫から2022年に改めて発行された。郵便局の仕事に就くが理不尽なことばかり起こる労働の日々を描いている。酒に女に競馬に溺れて、絶対付き合えないタイプの主人公だけど、なんだかコミカルでなぜか嫌いになれない。読んでいるこっちまで二日酔いになりそうなめちゃめちゃな日々だけど、リズミカルな文章が読ませる。非正規雇用で雇われると正職員の穴埋めばかりさせられるとか、正社員になったらなったで不当な長時間労働を強いられるとか、資本主義の下に置かれた人間への不条理な仕打ちが描かれ、今に通ずるところもあったりする。出てくる奴ら全員変だし、全体的にどうしようもない感じの話だけど、なんか愛しいような不思議な魅力のある小説。