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松本パルコが閉店する前に

5年前の松本一人旅を振り返りたい。松本は作家の小嶋陽太郎の出身地であり、作品の舞台にもなっている。私は松本に住んだことはないし、これといった縁もなく、市民と同じ思いではないけど、小嶋陽太郎の作品である『放課後ひとり同盟』にも登場する松本パルコがなくなるのは他人事とはいえ少し寂しい。

2019年の3月、日帰りの一人旅って初めてで(まあ何を以て旅と見做すかは難しいところだけど)、聖地巡りをしつつ色々発見もある、春の始まりに相応しいささやかなご褒美のような旅だった。

昼間は心地よい天気だった

聖地巡りからスタート

まずは女鳥羽川沿いをふらふらと歩いていく。信州大学に着くと、大学目の前にあるカレー屋に入る。なんとなく信大生になった気分で。そして『悲しい話は終わりにしよう』にも出てくるイエローカレーを頼んだ。辛いとは知っていたけどやはり辛くて、汗だくになって食べた。美味しかった。そしてまた女鳥羽川沿いを歩いて、同じく『悲しい話は終わりにしよう』に出てくる公園にたどり着く。なんてことのない普通の公園だけど、物語というレイヤーが重なっていることで特別なものに見えるから不思議だ。

心の中でここにいる登場人物たちの姿を重ねる

旧開智学校

聖地巡りは一旦そのくらいで、あとは気ままに歩きながら色々な場所を訪れた。旧開智学校はなかなか妙な建物で面白かった。明治9年に建てられたというこの建物は「擬洋風建築」であり、一見それらしく見えてもチートしているところがあったり、ずっと違和感のあり続ける、見飽きない建築だった。

とても目を引く建物

校舎に入るとかつての机と椅子とか、教材とかかつての様子を伝えるものが展示されていた。

二人一組のかわいらしい机と椅子
天井のへこみには欄間とも違う、葉の彫刻
擬洋風建築の解説
壁の上のほうにある扉

特に面白かったのは扉の木目が描いたものだったということ。言われても分からないくらいリアルだった。描いてまでそれらしく見せようなんてと思ったけど、ものすごい手間だろうし執念を感じる。

木目ぬり

松本城

街を見守る松本城も訪れた。天守に上ってみると街を見渡せて、割と近くから山がそそり立っている。360度山々が囲む土地は閉じている感じもするけど、やっぱり日常の景色に山があるほうがしっくりくる。

松本城目指して歩く
天守からの景色
敵陣を見張る視点はこんな感じだったかも

城の中は戦道具などの展示も充実していた。鉄砲を構える兵の絵は、横向きに伸びる鉄砲に沿うように90度角度を変えて文字が書かれているのが面白い。普通に描かれているけど、馬や舟の上で狙いを定められるってすごい。

時計博物館

でかい時計が待ち構えている時計博物館もなかなか面白かった。国も時代も様々の夥しい数の時計たちが展示されていて見応えがある。ごく一部だけど写真を載せておく。

橋を渡った途端この迫力で驚いた
時計の写真によるドット絵
天使の矢が時間を指している
サイズが色々の柱時計たち

振り返って

地方都市あるあるの車社会で、私のように道を歩いている人はほとんどいなかった。でも運転する人たちは優しくて何度も道を譲ってくれた。歩き通しで疲れたけど、最後は駅のほうに向かって城下町の入り組んだ通りを楽しんで歩いた。もちろん松本パルコにも立ち寄った。洒落たデパートというよりは地元地元した雰囲気が安心感があって好きだった。

昼間は晴天だったのに夜は雪が降って、傘がなかったので焦った。春になりきらない内陸の気候を存分に味わい、ガラガラの高速バスで少しの寂しさとともにくつろぎながら帰った。小嶋陽太郎の話に戻ると、彼は東京との移動にあずさを使っていたようで、「あずさにて」というエッセイもある。ローテンションな文体ながらとても面白くて気に入っている。5年前はお金がなくてバスで行ったけど、一度あずさも使ってみたい。松本パルコの閉店には間に合わないけど、また松本行くよ。そして、小嶋陽太郎の新作もいつかまた読めたらいいなと、静かに待っている。

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