オタク、歴史の証言集

実は自分は80年代〜90年代、日本のオタク黎明期のコンテンツ業界についてとても興味があって、ここ数年ちまちま調べているのですが、その過程で見つけた本をいくつか紹介します。主に同好の士への情報共有として。

岡田斗司夫『遺言』

ガイナックス元社長、通称オタキング岡田斗司夫の自伝的エッセイです。学生時代のSFファンとしての活動や庵野秀明らとの出会い、アニメ会社ガイナックス設立から退社までの流れが語られています。
諸々の事情やら利害やらの関係で語られていない部分やフェイクがある(例えば、上京した理由は岡田の不倫がバレて大阪にいづらくなったのが大きいと、後に本人の口から語られていますが、この中では触れられていない)と一定割り引いて読む必要がありますが、とても面白いエッセイになっています。

大塚英志『「おたく」の精神史』『二階の住人とその時代』

 オタク出身の文化人として岡田斗司夫同様に有名な大塚英志の著作です。大塚は当時ロリコンマンガの編集者としての活動し(大塚が編集長をしていた雑誌『漫画ブリッコ』ではじめて中森明夫が言及したのが「おたく」という呼称の起源であるとも言われています)、その後は批評家としても活躍しました。『オタクの精神史』は当時の大塚の活動とオタク文化や社会の動きについて割と広く書かれています。
『二階の住人とその時代』は、スタジオジブリと深い関わりを持つ徳間書店にもデスクを持っていた大塚の目から、スタジオジブリと徳間書店の歴史を描いたもので『「おたく」の精神史』より少しニッチな内容になっています。ただ、ラストの一文は泣けます。

武田康広『のーてんき通信』

ふたたびガイナックスのメンバーによるエッセイです。初期のガイナックスには岡田斗司夫をはじめとした大阪のSFファン出身のグループと、第3回大阪SF大会「DAICON3」のオープニングアニメ制作に協力したことで彼らと行動を共にするようになった庵野秀明・赤井孝美・山賀博之ら大阪芸術大学出身のグループが混在していました。武田康広は岡田斗司夫と同じ大阪のSFファン出身のメンバーです。
『のーてんき通信』ではガイナックス設立からエヴァンゲリオン制作、そして脱税事件(この時の社長の澤村氏も大阪SFファングループ出身のメンバーです)に至る流れが語られています。岡田斗司夫の『遺言』の内容を別の人物の視点から確認できる(岡田のガイナックス退社についての記述など)のに加え、岡田斗司夫退社後、エヴァンゲリオン後のガイナックスの動きを知ることができます。

安田均・水野良ほか『『ロードス島戦記』とその時代』

ライトノベル黎明期の名作として水野良『ロードス島戦記』があります。これは角川書店の雑誌『コンプティーク』に連載されたTRPG(テーブルトークRPG)のリプレイを、小説として書き直したものでした。この『コンプティーク』のリプレイ連載は、日本にTRPGを普及させるための紹介として、SF翻訳家でアナログゲーム界の草分けである安田均とその仲間たち(これがクリエイター集団「グループSNE」です。現在はアナログゲーム制作会社になっています)によって企画されました。この、ゲームを小説に転化した『ロードス島戦記』の成功後、角川書店はオタクをターゲットに定めたビジネスを次々展開し、オタク市場で巨大な存在となっていきます。
この本はその『ロードス島戦記』とその時代背景について、当時の関係者らにインタビューした、貴重な証言集です。

高橋信之『オタク稼業秘伝ノ書』

この作者のことをはじめて知ったのは数年前、岡田斗司夫のニコ生のゲストで登場した時で、オタク業界の昔に詳しい話が面白いおじさんという印象でした。作者は80〜90年代のオタク業界が徐々に盛り上がる中で起業し、いろいろな企画を打っては金を儲けていた、まさにオタクの「業界人」。この本はそんな作者のオタク業界での活動を書いたエッセイです。
オタクバブルが加熱する時代の空気と、コンテンツビジネス界のヒリヒリするようなヤバさ(途中で7億円が消えたり、会社が乗っ取られたり、助け舟を出してくれた人に騙されたりする)が両方感じられてとても面白いです。

以上、紹介はこの辺で。もし同好の士で「この本、オタクの歴史が分かって面白いよ!」という本をご存知の方おられましたら、是非教えてください。それでは、また。

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