第18話 学芸員古沸妖の妄想宇宙論【実体験×科学×オカルト=ビックバン】いっしょにぶっ飛び!
人はなぜ生きるか?
4.魂と脳という臓器-2
お母さんがスプーンを半開きの口に近づけ、口の中に食べさせる、食べさせると言うか口に入れるといった方が適切な表現かもしれない。
そしてスプーンを揺らして口の奥にのせて、スプーンを口から取り出す。
口の中に入った食べ物は、喉の奥に滑っていく。
多分これが食べるという一連の動きなのだろう、息もしているし、喉詰まりも起こしていないから。
これが出来るのに12年もかかったんだ…そう赤木館主は思った。
再びお母さんが同じ動きを始めた。
シャッターを切る、だが2、3枚撮影したとこで辞めた。
そして思った。ここまでの状況はビデオを見るであろう福祉に興味をもつ若者たちには必要ない。
あまりにもリアルで過酷な状況だから。
そうして、玄関でお母さんが言った言葉の意味がわかった。
女の子は生まれてからずっと一人でトイレに行くことも、体を洗うことも髪を洗う事もできない。
ましてや絵本を読み聞かせても反応しないし、寝付かせることすらできない。
またこの小柄なお母さんが一人でできる事も限られている。
──12歳とはいえ女の子の体つきはもう立派な大人の女性だったからですの。
つまり、部屋の中で他人に見せられる介護の状況は食べる事くらいなんだと、館主は頭が真っ白になった。
そして思った。
「生きるって何だ?」
そんな、呆然としたままの館主にお母さんがこういった。
「たぶん私たちの写真は使われないでしょう、あまりにも生々しくてリアルですからね」
──心を見透かされた気がした。
つづく
→第19話
第1話 1.プロローグ 2.ここは思念の世界です
第2話 3.物語を進めるにあたって
第3話 作用と反作用-1
第4話 作用と反作用-2
第5話 作用と反作用-3
第6話 概念における作用反作用-1
第7話 概念における作用反作用-2
第8話 心における作用反作用
第9話 思い出すってなんでしょう?-1
第10話 思い出すってなんでしょう?-2
第11話 思い出すってなんでしょう?-3
第12話 思い出すってなんでしょう?-4
第13話 オカルトなお話し-1
第14話 オカルトなお話し-2
第15話 出会い-1
第16話 出会い-2
第17話 魂と脳という臓器-1