第1話 学芸員古沸妖の妄想宇宙論【実体験×科学×オカルト=ビッグバン】いっしょにぶっ飛び!
1.プロローグ
──おや、お客様、赤木図書館にようこそいらっしゃいました。私は学芸員の古沸妖です。
しかし、よくまあここまで辿り着けましたのう。
なになに──人生に迷ってさまよっていたら、いつのまにか着いていた。
へっへっへっ…そうでございますか、ここに辿り着く多くのお客様が同じでございます。何の心配もいりませぬ。
──えっ、ここはどこだって? へっへっ…ご冗談をもう分かっているから辿り着いたんでしょう?
──でも始めての事で動揺してるって…なんでこんな森の中にどっしりと大きなゴシック様式の図書館があるのか? ──ですと…森は多くの生き物を育みます。
われわれ人間だって例外じゃなく、森に大地に地球に宇宙に生かされているんですから赤木館主は森に抱かれるようにこの図書館を建てたんですな。
所詮見栄えは単なる飾りですから、大切なのは中味じゃないでしょうかね?
来た人が驚いたらそれが嬉しい…それだけの事でこの重厚で城みたいな作りにしているだけでございます…へっ…ちょっとした洒落っ気ですな…。
お前は何で燕尾服など着ているのか? ですか?
そうですな、この図書館はあの世にある赤木館主のアカシックレコード(霊的な記憶庫)とつながっていて、私がそこから物語を呼び出す場所ですから、その学芸員が上品な格好をしていないと困りますがな。
これでも人間の年齢にしたらもう千六百五十二歳にもなりますかね、でも、心は老いちゃいません、いませんよ、見た目はそれなりに──頭髪なるものは随分昔に無くした、ですがこの白いちょび髭は愛嬌で残してあります…へっへっへっ。
現世で、指導霊やら守護霊やらと呼ばれているあれですよ、しかーし私は学芸員。
さあ中に入りましょう…別に何ら怖いことなどありませぬ、怖がりは私だけでよろしい、こわいよう、コワイヨウ…古沸妖…ってね。
人生のほんの一休みをしていきなされ…
2.ここは思念の世界です
──さあ行きましょうか、なんだかどこかの城門についてるような重そうでどでかい扉でございましょう、それにこの図書館をぐるりと囲む鉄壁の塀──どんな魑魅魍魎がやってくるかもしれませんから。
なにせここは思念の世界、物質界とはちょっと違う。
強い結果を張らないと、赤木館主の人生全てが記録されたアカシックレコードを悪用されてしまいかねません。
──この扉をどうやって開けるのか?
へっへっへっ…学芸員の私、古沸妖こそがその鍵です。今はお客様以外に周囲に何の気配もいたしません、今が開けどきささ開けますぞ、えい!
古沸妖が思念を送ると滑らかに、2メートルはある重厚な扉が開いた。観音開きしたその先に、ゴシック様式の図書館の全容が現れた。
早く早く入ってくだされ、ささ、お客様、魑魅魍魎が来ないうちに、邪念を持った魂が匂いを嗅ぎつけないうちに、そうそうそれでいいです。それじゃ閉めますぞ、えーい。
──では、こちらのテーブルへ、中はシンプルかつ上品な調度品でしょう、こちらのソファーに座って…。
そうそうごゆるりとお座りくだされ。
おや気がつきましたか、そりゃそうですよね、私の背丈の倍はある絵画ですから。
見たこともないほど美しいでしょう?
よく見ておきなさされ、但し、現世で目が覚めたら忘れてしまいますがね、どうにもこうにもこの世界の美しさは人間の脳みそだと処理能力の限界を超えてしまうそうでね、処理しきれないのだそうです。
でもお客様は今魂です、魂は決して忘れる事がないですのでご安心を──お客様のアカシックレコードに記録されたものは決して消える事はありません。
じゃあこの図書館で聞くことも全て現世で忘れてしまうのかって?
いえいえ、今からお客様に語るのは、ほんの些細な事。
館主によると宇宙についてなんて高校時代までの勉強でとっくに誰もが学んでしまう、そう難しくないものなんです。だから、現世に戻っても忘れる事はないでしょう。
──ただねお客様、おそらくお客様の想像を超えた理解の仕方が出てきます、というか、なんて言いますか、そうそう「ぶっ飛んでる」
へっへっへっ…それがピッタリな表現でございましょう。
──どうか現世の常識というモノを一度お捨てになって聞いてください。
さて妄想宇宙論の始まり、始まり。
つづく
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