第17話 学芸員古沸妖の妄想宇宙論【実体験×科学×オカルト=ビックバン】いっしょにぶっ飛び!
人はなぜ生きるか?
3.魂と脳という臓器-1
「この子は先天性の水頭症で頭の中に水が溜まり、お腹にいる時に脳が上手く発達しなかったらしく、体を何一つ動かせないし一人じゃなにもできません。
勿論話せませんし、見えているのか聞こえているのかも全くわからないし、何も反応できないんです。
お医者様がいうには、生きているのが、
──奇跡──
らしいです。」
そんな事って…
赤木館主はそうとうショックを受けました。
情報化社会が成熟してきた今でこそ、肉体における多様な障害を持つ人々がいるという事が発信されるようになり、それは障害ではなく個性である、という考え方も随分と定着してきました。
テレビでも番組として取り上げる機会も多くなり、今回の対象者のような方の状況を目にした方も多いでしょう。
加えて、技術の進化は本人による情報発信や、思いを他人に伝える事を可能にした。
手が思うように動かせなくても、言葉を文字にできたり、言葉が思うように話せなくても、書いた文字が言葉になったりすることが容易になり、それは自分の思いをネット上や対人関係において人に伝える事ができるようになってきた。
つまり、障害を乗り越えて人対人のコミュニケーションが容易になる事も多くなり、そこで感じるのやはり、魂を持った同じ人間であるという事です。
技術の進化は人の心にまで影響を与えるようになってきたのですな。
インターネットの普及は、一国では対象者が希少で研究できない事例でも、世界中に発信することで、同じような対象者を見つける事を可能にして、どうとらえるべきかという倫理観を含めて比較研究できるようになってきた。
赤木館主は某大学でミトコンドリアの遺伝子解析を行っているという植物学研究者と出会い、インターネットを通じて、部分部分にわけて解析することで、全体像が見えつつある。
そんなインタービューをしたことがあったが、世界とつながるという事はこういうことなんだと実感したことがある。
多様な情報は、医学的にも活用されているのは明白であり、どういった薬を用いて、どういった治療や介護をすべきか、という医学の進化に深くかかわっているでしょう。
また遠隔医療の分野も進んでいる。
でも、そのころは、平成の初めころですが携帯電話も持っていなかったし、インターネットも今ほど普及しておりませんし、テレビ番組も深刻なドキュメンタリーというよりはお笑い番組全盛期です。
だから、こういった個性をもつ子どもがいるなど思いもよらなかったのです。
あまりにも情報が少なかったし、いつもの仕事と同じように、内容を説明され出演者候補の二人にプレインタビューをしてきてくれと、ディレクターに指示されて来ただけなのです。
どんな出演者がそこで待っているかも知らず、調べようもなかったし、指示したディレクターもいつもの事と、軽く考えていたのです。
確かに、親戚に小児麻痺の子どもがいて、手足を思うように動かせないという人に接する機会は何度となくなりました。
でもこの子は違う、インタビューなんてできる状況ではないじゃないか。
そんな赤木館主をよそに、お母さんは台所の方に行き、お盆に載せた昼食セットを持って来ると、車いすの横に置いてあるテーブルに置いて言った。
「この頃ようやく流動食が飲み込めるようになったので家に連れ帰ったんです」
この頃ようやく流動食が飲み込めるようになったって…体つきはどうみても小学校高学年なのに。
「毎回同じ時間に食べさせるように、先生から言われているので、あまり遅れてはいけないから始めますね」
そう言ってお母さんは館主を見て微笑んだ。
頷く事しか出来ない。
まずは動きを見て、2回目にシャッターを押そうと思った。
そして、お母さんは一口分の流動食をスプーンで掬った。
つづく
→第18話
第1話 1.プロローグ 2.ここは思念の世界です
第2話 3.物語を進めるにあたって
第3話 作用と反作用-1
第4話 作用と反作用-2
第5話 作用と反作用-3
第6話 概念における作用反作用-1
第7話 概念における作用反作用-2
第8話 心における作用反作用
第9話 思い出すってなんでしょう?-1
第10話 思い出すってなんでしょう?-2
第11話 思い出すってなんでしょう?-3
第12話 思い出すってなんでしょう?-4
第13話 オカルトなお話し-1
第14話 オカルトなお話し-2
第15話 出会い-1
第16話 出会い-2
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