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ボタン一つかけちがっても

帰ろうと身支度を始めたところで
年末の炊き出しのお鍋と炊飯器を貸してほしいと連絡がある
ぜひ使ってくださいと明日の引き取りの約束をする

改めて自転車に跨って帰路を急ぐ

間に合うな

夕方なら在宅していますとおっしゃる利用者さんのお宅に
どうせ帰り道同じ方向だからついでと
お買い上げいただいた事業所の製品を配達にあがる

久しぶりの訪問でおまけに夜で暗くて鳥目でよく見えない
昼間とは別世界にみえて何度も訪問しているはずなのに
自信が持てなくて界隈をグルグルと徘徊して
海馬の記憶となんとか照合して間違いない(はず)と
インターフォンを押す

ピンポーン

赤毛です

はい、寒い中わざわざすみません
どうぞ、今開けます

ホッ(間違っていなかった)として
解除された扉のオートロック
開けゴマの呪文は効かなかったけど
無事にお届けする

それからさらに自宅とは反対方向に
帰宅せむとする人の流れに逆らって
列車の切符を発券しに駅へとさらにチャリを走らせる
ネットで予約してICカードに落とすこともできるんだけど
やっぱり旅は紙の切符と一緒にしたいんだよね
便利さと引き換えにあの旅情は無くしたくない
例え発券手続きにわざわざ出向かなければならないとしても

師走の雑踏に揉まれて無事に切符を手にして
旅へのカウントダウンが始まったことを
胸の鼓動がちょっと高くなったのを感じて

ふと時計を見やる

さっき友達が実家に帰って苺を手に入れたから
7時過ぎに届けるよって連絡をくれたから
御礼に何か手土産を成城石井で物色
呑兵衛だからショッパイのがイイかなと
名古屋のエビ煎餅にする

駐輪場にとめたのは7番のラック
ラッキーナンバーだから覚えてる
ウロウロせずに直で精算機に向かって7を押して
ラックからチャリを外して今度は南下自宅へと踵を向ける

スッカリ夜の帳が下りて見慣れたはずなのにネオンのせいでどこかよそよそしい街を走りながら
交番前の赤信号で止まる

ふと右を見やると
見覚えのある横顔とヘアスタイルの女の人の姿に
失礼を顧みずに2度見どころか3度見して
思わず声を掛けてしまう

あの、山田さんじゃありませんか?
赤毛です。
あの、お兄ちゃんに親子で髪の毛切ってもらってる赤毛です笑

ああああ、赤毛さん
よくわかりましたね お久しぶりです
保育園の卒業式以来何年振りかしら
週末も来てくださったって息子に聞いたところだったんですよ

ええ
あのお世辞じゃなくて
本当にそうだから言うんですけど
お兄ちゃんは三国一の美容師で
他の誰に切ってもらってもこうはならないんです
私も娘も猫っ毛で毛量少なめで
スタイルを作りにくいに違いないんですけど
細かく細かく何度も何度も丁寧にハサミを入れて頭蓋骨に合わせて立体を作ってくれるのがわかるんです
他の美容師さんのカットだとあっという間に海苔で貼り付けたみたいにペタッとしたシルエットになっちゃうんですけど
お兄ちゃんだと2ヶ月はスタイルが続くんですよ!

信号待ちなのに熱く語ってしまったのは
いつか会ったらお母さんにあなたの息子さんは立派な美容師ですと言いたかったのは
お兄ちゃんがここまでの道程でいろんなしんどい思いをしてきたことを
お客と担当美容師という関係性ではあるけど
この7年くらいは聞いてきたから
やっぱり他人事じゃない

勝手にそう思ってしまうから

あの赤毛さん
お時間ありますか
お急ぎじゃなかったら自転車降りて押しながら
お話しながら歩きませんか?

ええ
喜んで!

居酒屋みたいな返事して笑

カラカラと車輪の回る音をBGMに
お互いの近況を
何年ぶりだろ15年ぶり?笑
にお話するのに不思議と違和感がない

直接は話さなくても
お互いの子ども同士が細く繋がっているからなんとなくこの間の成長のエピソードを共有していて
目に見えなくても会わなくても
どこかに存在を感じていたから

そう言えば成人のときは久保田頂いちゃって
ご馳走様でした♥
美味しかったです。でも私痩せなくっちゃ!全然痩せなくてえ♥

いいと思いますお元気なら
病気したら痩せますから
ウチの娘にもつまみ細工の素敵な髪飾り
有難うございますお気持ちが嬉しかったです

いえいえ
趣味なんです
うちは女の子がいなくてー楽しかったわ可愛いの作るのは
そうそう赤毛さんご病気なさったって
大丈夫なんですかあ

ええ
そうちょうどこの橋の上でくも膜下出血になりました汗

まああ
この橋?

ええびっくりしましたけど
ご覧の通り元気です仕事もしてますし

それは大変でしたね
でも良かったわあお元気で
そういえば下のお嬢さんおいくつになるの?

大学1年になりましたね
ハタチです
みんな保育園でバブバブしてたのに大きくなりましたよねえ

年取るはずよねえ我々も笑笑

なんて話ながらあっという間に交差点
別れの場所に

私はここ左なんで
お会いできてお話できて
良かったです
話して歩きませんかって言ってくださって嬉しかったです

ええこちらこそ
足をお止めして
また

保育園時と同じだなと思わず笑ってしまう

保育園時代も仕事から帰って子供ピックアップしてその後またガニ股で家に帰って夕飯支度して風呂入れてって毎日ダブルヘッダーやってるみたいで

みんなお母さん連中は忙しくて
短くペチャペチャって喋ってさっと別れて
君子の交わり淡きこと水の如しみたいで笑

そう
長く喋れば仲が深まるというわけじゃない
あの忙しい中を共に戦い抜いた戦友みたいな感覚が保育園ママ同士きっとある

1つボタンをかけちがっても
何かがほんの数分数秒長くても短くても
こうしてバッタリ同じ信号に足を止める事はなかったろうし
出会うと言うことはまさに一期一会ドンピシャな有りえないような瞬間を手にして出会えていることに気づくと

何もかもに意味があるようにも
偶然というより必然を感じたくなるけど
まあどちらかなのかに議論青筋立てるよりは
好きな人にチンコ勃てるほうが余程建設的であろうと思ってしまうけど笑

一つ一つの今こうしている間にも
刻々と刻んでゆくときに
次の出会いや別れがラピュタみたいに
組み替えられているのだと

来し方を振り返りながら
感謝の思いで手を合わせる









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