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熱量のバトン

先週は寒波襲来
詰まった等圧線と生理痛と更年期と三つ巴
が痛くて我慢ならず
ロキソニンのお世話になって出勤していたけれど
週の真ん中に3日続いた新規の利用希望の方の実習を終えたら
プッツリ緊張の糸が切れたのか
金曜日の朝は薬に勝って頭痛がズキズキが引かない

申し訳ありません 頭痛が引かないので
薬が効いてくるまで一時間遅刻して様子見ますと連絡を入れた

直ぐにおひとりから返信があって
そういうときは、無理せずに休んだ方がいいと思います

もう一人からも
そうですね、出勤するとしても完全に良くなってからにしてください

ああなんて優しい男子たちなんだ
自分らはどんなに具合が悪くても這ってでも出勤しているのに
私がちょっと具合がよくないというと
軍曹に敬礼する士官候補生みたいにピッとした顔で
休んでください、ここは大丈夫ですと
実際に赤毛は雇われママみたいなもんで
実際のオペレーションは彼ら二人で回しているのだから
確かに私なんぞ猫の手くらいのもので
いつも邪魔しないように彼らが働きやすいようにと
シュートコース邪魔してませんよねオバサンがと
キョロキョロしているんだけど

しかし
これしきのことで休んでいては女がスタル
仕事になんかならない

朝からお騒がせしてスミマセン
更年期と生理痛と低気圧の不調が重なったんだと思っています。
大丈夫です薬が効いてきたら出勤しますと返信した

勿論出勤してバタバタと業務に合流するのを
職員たちは、休めって言ったのに聞かねえ奴が来たよとチラと心配そうに見遣るけれど
もう列車が走り始めているんだからと
(利用者さんが通所している)
いつも通りに朝礼とラジオ体操で
今日もげんきにいきまっしょいとみなさんに声をかける

送迎バスを見送って職員だけになると
朝最初にメールを返してくれた森さんが

今日は職員会議の予定ですけど 
どうしても今日でなくてもいいのなら
月曜日にしませんか
そして定時で今日はあがりませんかと

ああ気遣ってくれているのだとありがたくて

はい、月曜日にしましょう
勿論です定時に帰りましょう

赤毛さん、今日僕が無理しない方がいいといったのはですね
理由があるんです
それは僕の母親が小学四年生の時に脳溢血で死んでいるからなんです

ああ

確か何月だったかな、前にも一度私が頭痛で遅刻しますって言ったら
家に誰かいるのなら今日は休んだ方がいいと思いますと言ってくれましたよね
それがとても記憶に残っているんです
休んだ方がいいじゃなくて、条件付き
もし具合がもっと悪くなった時に
側に誰もいなかったら大変なことになりかねないことを予測しているのがわかりました

実はうちの父も、私が倒れてから
残業する時に1人にならないようにと
一人になる前に帰るようにと口酸っぱく言うんです
それは前回倒れたときに側に人がいて救急車に同乗してもらえて家族にも連絡してもらえた
一人だったらどうなっていたか分からないという経験があって
私の命を本当に心配しているからこそだと思うんです

森さんのもまた
本当に心配する人のそれだなと思って印象に残っているんです

僕の母は師長でした
看護師長で、専門職だったんです
血圧も高かったんですけど、
朝頭が痛いと言っていたのに
大丈夫だと言って仕事に行って帰って来て
風呂場で脳溢血を起こして死んでしまったんです

今だったら絶対に母親を死なせません
小学校四年生の自分にはわからなかったから死なせてしまったけれど
だから赤毛さんが素人判断で大丈夫だとか言ってるのを
黙ってはいられないんです
母は師長だったのに、自分の身体を見誤って死んでしまったんですから

お母さんは自分の身体のことだから見誤ったのかもしれません
大丈夫だと
もし患者さんのことだったら判断できたかもしれません

はい
僕もそう思います
自分のことは人は軽くみるんです

あの、出勤してスミマセンでした

いえ
僕も母親のことがあるので
もうそういう思いを自分がしたくないだけなんです

彼は黙って私の自転車に空気を入れてくれた彼で
どんだけ他力なんだと思い知らされて
頭が下がりっぱなしだけれど

その人の熱さは実はちょっと他の人の平熱とは
サーモグラフィー無しでも明らかに際立っていて
そんなところから発せられていた熱量だったのかと
お母さんの分も彼の心配をありがたく受け取って
私も誰かの内側に届けねばと
月曜日の朝チャリを漕ぐ








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