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貸し借り

忘れながら生きていると書きながら
実は忘れたくても忘れられないことも沢山ある
それは忘れちゃいけないよって戒めもあるし
返しの付いた釣り針のみ込んじゃって
一蓮托生一生ついて回る記憶もある

中学校の卒業式に
同級生の黒川さんから言われた一言は忘れられないトップテンにランクインしている
『赤毛さん 十円 返してくれないかな』

たったその三十一文字にも満たない
たった19文字だけど

印象的なのはそのタイミング
中学校の卒業式
明日からはそれぞれの進路に分かれて
それまでは毎日同じ教室で顔を突き合わせていても
もしかしたら翌日からはもう一生会わない人も少なくない

そんな日

え?十円?返して?借りたっけな?
借りたことすら覚えていない十円を返してくれと言われて正直面食らって
もっと正直に言うと
え?に含まれるのは
十円くらいでって 逆切れに近いような
返さなかった自分を恥ずかしく思う故の

借りた側の傲慢

記憶の糸をたどり寄せてみると
両親に連絡を取らねばならないことがあって
学校にあった公衆電話を使おうと
黒川さんに十円を借りたことがあったのを思い出す

ご、ごめんね
借りっぱなしだった
すっかり忘れてた
でも今お金持っていないから、ウチに帰ったら、黒川さんちに届ける
ほんと、ご、ごめんね

その時に思い知ったのは
たかがとか、されどとか、十円くらいとか
借りた側が勝手に言う言葉はないということ
借りた金は返さなければならないという
闇金ウシジマくんに聞くまでもなく至極真っ当なことなんだけど

借りた方がすっかり忘れているその十円を
今か今かと、今日は返してくれるんじゃないかと
卒業式の前の日まで待ち続けていたのかと思うと
本当に申し訳なくて
その間一言も非難めいたことも言わず
極々普通に接してくれていた彼女の胸の内というのは
窺い知れないんだと
圧倒的な十円の温度差に
背筋が寒くなるような気がして

ああとにかく借りたら絶対に速攻で返さなきゃいけない
自分の気軽さと
相手の気重さが
天秤のバランスをとってることを
脳天カチ割られて思い知って
そもそも人に借りたらいかんなあとトボトボ中学校の門を後にした

まあその後も銀行さんにも結構金借りて苦笑
利子付けて熨斗付けて繰り上げまくって完済したけど
そのスピード感にも金ははよ返さないかんという
卒業式のトラウマがあったのかもしれない

当の本人赤毛のチコは
何を借りても貸しても基本的に忘れてしまう
だけど公衆電話代の教えがあるから
そもそも論借りるシチュエーションを作らないようにと思うけど
貸し借りのない人生なんてないから
借りたら返す借りたら返すとワスレンナヨと念仏唱えてる

よく貸したことは忘れないとかいうけど
貸すときは基本的にはあげるつもりだから
帰ってこなくてもいいと思って貸しているから
結構貸したことも忘れてしまう

この間
ごめーん、借りっぱなしになってた!と
QUEENの伝説のライブDVDを友人が返してくれた。
掃除してたら棚の奥に挟まっているのを見つけて汗
そうだ借りっぱなしだったって、長い間アリガトウネ汗

多分ボヘミアンラプソディーが上映されたころだから
何年前やろ?笑
勿論貸したこともすっかり忘れて
戻ってきたのにお得感すらある笑

でも借りているものがウチにあるときは
その人とのご縁がゲンブツ、目に見えて
これを返すという理由であと一回は確実に会えるんだなと思って
その人の化身のように思うこともある
あ、ちょっと怖い?ストーカー入ってる??苦笑

ふと、あの本誰に貸したんだっけな
と思う行方不明本が何冊か思い浮かぶけど
その人の手から誰かの手に渡って
本が旅していくのが一番いいなあと思うから
帰ってこないのはいい便りだと思うことにしている






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