ナポリを見て死ね
グレープバインはナポリを見て死ねと歌ったけど
何を見ずには死ねないと思うかは
人それぞれだと思うけど
多分まだ死なないと思っているし
死ぬまでには時間があると思っているから
これを本当に本気にする人は少ない
けれど自分の身に一度そんなようなことが
控えめに婉曲表現だけど
確かに起きてみれば
またなんて言葉にはなんの保障もなく
先に延ばしたことは
突然フッとかき消される命の炎の前には
無力に手が届かないんだと
あー衆人環視のもとでオムツ履かされるんやったら
ユニクロのパンツやなくて
サテンの一張羅の履いとけばよかったのかなとか
あれ結局ベンチ入りでお蔵入りか出番なかったなと
思うものだけど後の祭りだ
まあパンツのことは百歩譲ってどうでもええわとしても
目の黒いうちは許さないというのはどうも父権主義的だけど
生きているうちには〇〇しておきたいと思うことがあるのなら
善は急げだ
そうはいっても仕事があったり家族がいたり
先立つものがいつもあるとは限らないから
そう簡単にはいかないのもわかるし
私もそうだった
学齢期の子供2人抱えてシングルマザーが
自分のために使う金なんかあるかいなって
そんなの後回し後回しや
育て上げた暁のご褒美にとっておくんや
そう思ってた
けど
あとに楽しみをとっておくのはいいけど
後まで生きているとどうして言い切れる?
備えることが目的化してない?って
薄い胸に手を当てたら
間隙をぬって
今の自分が使って差し支えない範囲の時間とお金を
消費することが怖くなくなった
それまでは逆に今使わないことで将来の安心が買えると思ってたフシがあったけど
そんなことないんやと
今と将来の安心の約束なんてないんだと
開き直れたから笑
今回のお盆休みは仕事の山場がちょうどお盆休みと重なっていて
ほぼ休日返上で対応して
お盆休み明けに通常運転ができるように試運転することが
特に管理者には至上命題だったので
どこかに行くとか自分の楽しみを実現する機会としては
あっさり早々に見送っていたのだけど
作業の進捗とカレンダーをニラメッコしてみたら
行ける.…かもしれないと思い始め
弾丸タイムトラベラーでいいからと
阪神甲子園球場に旅してきた笑
野球に興味あるなしに関わらず
夏になればセミが鳴くくらいの確実さで
日本に暮らすものの耳にはカキーンという
金属バット音が脳内コダマすると思うのだけど
私も例に漏れず夏の甲子園球場を
一度は網膜に焼き付けたいと思う一人だったので
光の速さで(そんなには速くないか)
のぞみで阪神甲子園球場に馳せ参じた。
ちょうど長野日大の試合が終わって
ピンクのライブTシャツ着た吹部の子たちが
ゆでダコみたいな真っ赤な顔して
退場してくるところに遭遇したのだけど
オレンジ色の石橋高校のアルプススタンドの近くの
ライト側の外野席に座ってみると
なんだか昔の善光寺参りってこんな感じだったのかなあと
全国津々浦々から聖地目指して講を組んで
祈りを捧げに人々が集う場所
球場に吸い込まれる人も吐き出される人も
勝っても負けてもみんなニコニコしていて
ハレの日の高揚感が球場を同心円の真ん中に
ヒタヒタと周囲に波及してワクワクする
上から照りつける太陽にジリジリと肌が焼かれる音なんか
吹奏楽部のトランペット音にかき消されるし
応援に駆けつけた卒業生と思しきオジやんの
フェスかよというくらい振り回すタオルが巻き起こす旋風で
球場は時折、浜風とは無関係に風が吹き抜ける
名物のかち割り氷を一つは首に当てて
一つはチュウチュウと溶けるそばから蝶のようにストローで吸い上げて
必死に体を内側から冷やす
こんなオバが倒れて救急対応していただくのは申し訳ないから
自分で自分の体調管理だけはしますからって
テレビの画面越しには見えないアングルで試合を見て
センターに打球が飛べばライトもレフトもサポートに走るし
桑田路みたいに踏まれて剥げた芝生が
昨日、いや歴代のその場所を守った先達の存在を選手に教えて
下がり過ぎやな危ないなといった次の瞬間に
ライト前にヒットを打たれて
公式記録のミスではないけれど
定位置に守っていれば進塁を防げたかもしれないから
惜しいなってつぶやきを耳にして
同時進行で球場全体で起こっていることを
スタンドにいれば見渡すことができるのに感動して
ピッチャーとバッターの一対一の対決ではあるけど
ピッチャーの背中の仲間たちも一球一球に反応して
一緒にヒッヒッフーと呼吸を合わせて守っている戦っていることに
汗でもう出ないと思った我慢汁が目からも流れてしまった
石橋高校も聖徳学園もどちらも地元に甲子園の常連校(仙台育英・作新学園)がいて
恐らく天井を突き破れない悔しさを噛み締めてきた学校で
晴れの舞台で文字通りの全力投球に
どっちもがんばれと手を合わせて祈りを捧げて
蔦の絡まる緑の球場を後にした
入場門には智辯和歌山高校のあの赤い文字のユニフォームに
パッツンパッツンの体を押し込めた野球部員たちが整列していて
あの「辯」の文字には言霊という言葉を信じたくなるような
相手を威圧する縮み上がらせるような力があるんだよなあと思いながら
霞ヶ浦高校に多めのエールを送って駅へと歩く
何の変哲もないどちらかというと住宅街に
突如表す緑の丸い建物に
全国からの祈りを集める求心力を感じて
お土産に阪神電鉄の阪神甲子園駅の青いタオルを買った
阪神タイガースでもないし甲子園球場でもないのかと訝られたけど
阪神グッズだったら東京でも手に入るんだもの汗
東京では絶対手に入らないもの
甲子園球場のあの熱気を伝える伝導率の良いものと考えて
ここはあの青い電車に東京まで
ナポリを見たと鼻の穴を膨らませている赤毛の
熱量を運んでもらおうと思った
帰京はしてもカズじゃないけど魂の一部分は
球場においてきたつもりで
今頃はと聞こえないサイレンの音に耳を澄ませて
どっちも頑張れと私の持ち場でパソコンに向かう
青春ならラッドに任せよう