お母さんは心配性

スカート短いんじゃない!
あーそれ中はズボンになってるやつ？
ダメじゃん
ただのスカートだ
パンツみえちゃうんじゃない
短いにもほどがある
いくらなんでもそれは短すぎるぞ

好きな服を着る自由はあるけど
その服がどんなメッセージを発するのか
それに無頓着なのはやっぱりリスクだとママは思う

正論としては
どんな服を着ていても
それに欲情してオッパイ触ってきたら
オッパイ触ったやつが悪い

だけど

他者の目に映る自分を
イメージできないでは
やっぱり自分の魅力を理解してるとは言えないと思う

なんてことを朝の玄関先でワアワアキレ散らかすお母さんに
うるせえなあと黙殺行ってしまうかと思ったけど
さっとブーツのチャックを下ろして
もう一度部屋に上がり

スカートを着替え始めた

およ
脱ぐんかい
ママの言う事聞くんかいな
そうかな、と思ったんかな
自分でもちょっとそう思ってたのかな

チラッと視線を合わせたけど
何も言わずに足早に来た道を戻って
いってきますも言わずに
学校へと急ぎ去っていく後ろ姿を
やや呆気にとられて見送る

箸の上げ下げ重箱の隅つつくようなことは
あんまり言いたくない
細かいことにはあんま気づかない方だし苦笑

けど、やっぱり女であるということは
不利なこともあってリスクもあって
自分で自分の身を守って生きていくことは
女のパイセンとして離婚したからなあ説得力あるかな苦笑
伝えたいと思ってる

絶賛浪人中の高校時代の友人と
深夜の公園でくっちゃべってる長女
補導される中学生みたいなことやってるけど
帰宅しないのに業を煮やして
捜索願出しちゃうぞって脅しのLINEしたら
今帰るところって帰ってきたけど

本当に捜索願出したことあるから
信憑性もある

あれは大学受験真っ最中
私大の受験日、待てど暮らせど帰ってこない
LINEにも既読がつかない
携帯にもでない
遅い遅い何かあったのだろうかが
何かあったに違いない
≒だから連絡がないんだと確信に変わって

夜の10時、110番からの捜索願
娘が帰ってきません携帯でも一切連絡が取れません
今日は大学入試日で終われば夕方には戻るはずです

わかりました近所の交番からお話を伺いに参ります

お巡りさんが二人直行して
ピンポンとインターホン　扉を開けると
覗く心配そうな顔
その顔の向こう廊下越しにテロテロ帰ってくる
制服姿のわが娘

あああ！あの娘です！帰ってきましたああ！

ああ、お嬢さんですね
よかったですね

君、赤毛さん？

ええ、そうです
（なんでお巡りさん？）（汗）

お母さんが帰ってこないのを心配して相談があったんだよ
今日はどうしたの？受験だったんだよね？

ええ、テスト終わって
近くの東急ハンズに行っていました
そしたら面白くって閉店までいて
そしたら帰るのこの時間になってしまいました

電話にもでないって、心配してたけど

ああ、携帯。充電切れちゃったんです。

ああ、そうだったんだね。
テストが終わって東急ハンスをみていて
携帯は充電が切れて連絡が出来なかったんだね
それで今帰って来たんだね

ですって、お母さん
良かったですね。

（穴があったら入りたい）
おおお、お忙しい中本当にお騒がせしましたああっ

ええ、お気になさらず
これからも気になったときは相談してください
じゃ失礼します

お巡りさんの背中を最敬礼で90度に腰を折ってお見送りして
シレッと帰ってきた長女はいったい何の騒ぎ？って
顔してるけど

私の空回りなのかあ？
娘が普段ならとっくに帰宅してる時間を
何時間も過ぎて連絡がなくても
なんでもないのが普通なのか？過保護？過干渉？

と悶々としながらも
テスト、どうだった？
携帯充電しときなよ、連絡取れないと困るから
って

力なく言葉をかけて

娘はやっぱりシレッと
うん、ばっちり、できたよ
だから時間余っちゃって、先に提出して
出てきちゃった教室

なんて余裕ブッコいてたけど
なんや落ちてたやんけ！！！苦笑

3月の二次試験を終えて合格の二文字を見たときは
走馬灯みたいにいろんな記憶が去来して
抱きしめあってしまったけど
その一部はあの捜索願の夜の心配も含まれていたと思う

命に代えるみたいにして産んだ娘のことを
愛おしく思わない日はないし
もう今はさすがに10時で捜索願出すことはしないけど苦笑

ふた親で背負う心配を
ひとりのなで肩で背負っているから
時々心配が爆発して
お母さんは心配性を発揮してしまうけど

それも愛情のキモイ発露だと
いつかは笑ってくれるのではないかと
そうやって笑って思い出せるのは
心配が現実にならないからで
杞憂なら幾つだって積み重ねるぜと鼻息荒くするけど

もうあんまりママの出番はなさそうで
それはそれで大きくなったんだなあと
太郎と次郎の眠る屋根に雪が降りつむのを
しいんとした夜に聞いている