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うっすらSFな生鮮食品売り場
野菜が高い。果物が高い。
商店街の八百屋は安くて新鮮でほぼ毎日売り切りで
狭小な店内はいつだって長蛇の列なんだけど
その店ですら値段が去年に比べて二倍近く上がっている
勿論旬のものは安いし、
季節を外れた時のトマトやキュウリなんかは高いのはいつもそうだったけど
今年は一年を通してゆっくりとじりじりと値を上げ続けて
私のお財布も悲鳴を上げそうだ
特に酷いのはイオンやら大手のスーパーで
値上げ幅は近所の商店の比ではなくて
例年に比べたら異常気象で出来の良くない
小さかったり、傷の多い野菜に群がるようにして
お客さんがカート越しに品定めしているけど
品数も少ないと感じるし
その値段に釣り合わない大きさや量にため息をついたり
悪態をついて売り場から去っていくひとの殺気が充満して
遠巻きにして生鮮食品売り場に近づくことが出来ない
利用者さんと雑談していても
今年は夏の初めにサクランボを食べたきりで
スイカも、メロンも食べないうちに夏が終わってしまって
バナナを朝買って食べていたんだけど
そのバナナもいつの間にか一房二百円になってしまって
柿の季節だな食べたいなと思うけれど
とてもじゃないけど一人暮らしで一個二百円の柿やリンゴを買えないし
給食で出るバナナも半分の半分みたいな大きさになってしまったなと思うけれど
それでも食べられるからありがたい
というような話になる
私はまだ今年は高いなと言いながらも
果物が大好きだし娘らもいるから食べさせる役割もあって
モモも、ブドウも、スイカも、柿もリンゴも買っているけれど
来年いくらいになるか分からないし
娘らが独立して一人で暮らすようになったら
自分のために買って食べているかどうかは分からないなと思う
高級食材に日常担当のリンゴも柿もなってしまうのかという恐れに
貧相な野菜売り場に殺到する人の群れを見ていると
なんだかSFみたいだなと
他人事ではないのだけれど
エバンゲリオンや2001年宇宙の旅みたいな
プレートのペースト食や、
これまんまカロリーメイトやなって思ったけど
高機能栄養食品で人類の糊口をしのぐ時がやって来て
大地に種を撒いて収穫した実りを口にすることが
至上の贅沢な時がやってくるのかもしれないと
いやもうやって来ているのかもしれないなと
イカが穫れないホヤが穫れない
沖縄の県魚が東北の海で穫れて
寒冷に強く品種改良されたコメが温暖化で実らない
熊も猪も山から里に下りてくるのは山にもう食べられるものが無いからで
人間は自然を作り変えて都会に暮らしているから
気づくのに時差があるけれど
自然に生きる獣や魚や植物はもうとっくに異変を伝えるアラームを鳴らしているのに
聞きたくないと聞こえないふりをしているうちに
まだ戻れる帰還不能点を越えてしまっているのではないかと
うすらぼんやり思っていたことが
イオンの生鮮食品売り場で可視化されて
なんだか不安を覚えてその場を立ち去ってしまったけれど
COP29、アゼルバイジャン遠い国の遠い出来事とは
米がないなんて前代未聞みたいな秋を経て
思えない自分に耳を塞いで
正常化バイアス何も起きていないふりして
買い物袋を提げて帰ってくる土曜日に
トムヨーク 行けてよかった
甘く優しい時間でした