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青春というより白玉〜君がカロリーメイト受験生だったころ〜

君はカロリーメイト受験生だった。中高一貫校のぬるま湯に浸かりきってほとんど勉強しなかった君が、突然勉強を始めたのは高3の5月だった。志望校に据えたのは無謀ながらも慶應義塾大学法学部政治学科で、それからは持てる時間を可能な限り受験勉強に費やしていた。

眠気は敵だった。特に、夕ご飯を食べたあとのそれは、23時に自習室が閉まるまでの時間帯の最大の敵だった。それだから君は母親が作っていてくれた通常の晩ご飯をやめた。晩飯はカロリーメイト1箱になり、そのうち昼休みに弁当を食う時間も惜しいということで、昼もカロリーメイトになった。

直前期には健康を優先させるということで、この習慣はやめることになったが、6月からおよそ半年、君の食事は3度のうちの2度カロリーメイトだった。チョコレート、フルーツ、チーズ、そして今は亡きポテト。毎朝、その組み合わせを瞬時に考えるのが束の間の楽しみでもあった。

君は一度だけ、自らに課したこの食事制限を破ったことがあった。小論文の添削を受けるために、Z会の主宰する冬季講習に一度か二度、参加した時だ。場所は渋谷の雑居ビルだった。ちなみに、そのビルはもう存在しない。一階が大黒ドラッグ、二階三階が釣り具店だった桜丘のビル、といえば通じる人も多いのではないか。

最後の講義が終わって、渋谷から帰ろうとするときに、君はまっすぐ帰らず、山手線に乗って三田まで行った。あゆみBOOKSに寄り、通りに出たら東京タワーの写メを撮り、歩いていくうちに通りに面した写真で見たことのある門の前に来た。「おお、ここがやがて俺の来るところか。待っていろよ」なんてベタな誓いをしたあと、君はすぐそばにラーメン屋があるのを発見した。躊躇したものの、入学後に自分が通学するイメージを明確にするためにも、また、少し寒かったのもあって、君はその店に入った。店の名前は、覚えていない。その店がいまもあるのか、わからない。そして、味もうまいと思ったかも。だが、とにかくその日、君は久々にカロリーメイト以外のものを自分から食べたのだ。

その二日後。君は普段通り学校へ行った。まだ自由登校にはなっていなかったので、教室には普通にクラスメイトがいた。その休み時間に突然、君のお腹はギュルギュルとなり、何かがスピンしながらなんとか食道を駆け上がろうとしていた。君はすぐさま口を手で抑えて、その何かに備えた。瞬時の判断で君は、吐瀉物が噴射されることになるのかと推測した。「たとえ教室でぶちまけても、もうすぐ卒業だし、ま、いっかなー☆」なんて君が思ってるあいだに、口からは小さなげっぷが出、続いて手のひらがその何かを受け止めた。

口を押さえたまま、君は廊下に出たと思う。そして近くに人がいないことを確認して、口から手のひらを剥がして、その何かを見つめた。それは白くて、よく光を反射していて、歪でありながらも卓球のボールより少し小さいくらいの球体をなしていた。君は何が起きたのか、まったくわからない様子だった。何かによって自らの食道をスピンしながら逆流されたことが身体的な感覚として単純に気持ち悪かったようで、単純に君はショックを受けていた。手のひらに乗っている奇怪なこの物体はなんだというのか。呆然としていた。

がしかし、すぐさま君は一昨日イレギュラーな夕食をしてしまったことを思い出し、それが原因だと推測した。指先で軽く押してみると、ぷにぷにしている。どうやら、脂肪のかたまりのようであった。ラーメンに浮かんでいたスープの油を思い出して完全に納得した君は、廊下の窓を開けて、その脂肪のかたまりを外に放り投げた。その後、実際に君は2月の直前期に「ありゃこれどうかんがえても慶應受かんねえわ」となり、試験会場にも行かず志望校まで投げ出すこととなった。なお、廊下から脂肪を投げた話は嘘である。

当たり前だが、ただラーメンを一杯食べただけでこんなことが起きるはずがない。カロリーメイトオンリーの生活に、急に脂肪分たっぷりのラーメンが挿入されたことによって、このようなことが起きた。カロリーメイトについて語るとき、私はどうしてもこの脂肪のかたまりについて語らないといけないと感じる。

さて、カロリーメイトの広告見て買ってパクパクしながら勉強している受験生諸君。君たちからは脂肪のかたまりは出たか? 出す勇気はあるか? もちろん、そんなものは無くっていいんだよ!!

後記

以上の文章は、最近の大塚製薬の広告への反逆として書かれた。私はオロナイン、ポカリスエット、ウルオス、オロナミンC、ソイジョイ、カロリーメイト(そう、未だに)を愛好しており、大塚製薬、大塚製菓にはだいぶお世話になっている。しかし、最近の「青春感全推し」とでもいうべき広告戦略には辟易している。何がアオハルだよ、現実はシロタマだったわ。実際に少しだけ購買を控えるようにもなっているが、もちろん、私ひとりこんな反逆をしたとしても、何も意味がない。ただの悪あがきに過ぎない。

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