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くるりと赤い電車

ー長女)一人で行くよ

長女が、経路をグーグルで調べて送ってくれた。天空橋まで小一時間。仕事終わりにはせ参じれば開演までには間に合う。

ー私)うん。わかった。現地集合ね。Zepp羽田で。

くるりのライブ。長女とスタンディングのチケットが二枚取れた。なんと初参戦笑。

赤い電車に乗って会場に向かう。すでにライブが始まっているみたいな舞台装置の整い方に、うっとりしながら天空橋駅に着く。いい名前だな。ラピュタに出てきそうだし、くるりの歌にもありそうだ。旅人を見送る駅にふさわしい。

折からの激しいゲリラ雷雨に見舞われる。叩きつけるような雨脚に傘を差しても濡れてしまう。ふと、前を見やると、建物にへばりつくようにして傘もささずに歩くお姉さんがひとり。

これじゃあ、びしょぬれだ。

そう思って、傘を傾け声をかける。

ーあの、くるりのライブに行かれるんですよね?よかったら、一緒に入りませんか。

ーわ!ありがとうございます。あの、折りたたみ傘を持って来たんですけど、途中で失くしてしまって、どうしようかと、濡れていくしかないって思っていたんです涙

ーいったん止みましたけどね。また降ってきましたね。帰りは止むかもしれませんね。

数分、袖振り合うも他生の縁。くるりファン。息が合わないはずがない笑。お話ししながら歩く。私、男に生まれたら結構ナンパ得意かもしれないなあなんて思いながら笑。

ーこの前の川崎、外れちゃったんです涙。羽田は箱が小さいからダメかなと思ったら、当たって。喜んでたんですけど、コロナがこんなことになっちゃって、中止になっちゃうんじゃないかって昨日まで心配でした。今日、これて本当に嬉しいんです涙

ー私、岸田さんより年も上なんですけど、くるりはずっと大好きなんですけど、なぜか今日初参戦なんですよ笑。娘と来るはずだったんですけど、遅刻してるみたいで、一人会場入りで寂しかったんで、話しかけちゃいました。ごめんなさいね。

ーえ!そんな見えません。全然。びっくりです。本当ですか!?

ーええ、娘は大学二年と高校三年ですし、50歳のバンギャならぬバンオバです。

ーええええ!そんなお子さんがいらっしゃるなんて、それもそんな大きな!

ーまあ、お世辞でもうれしいです。ありがとうございます。

そうこうしているうちに、会場につき、入り口ではドリンクチャージ代をさらに600円せしめる入場の禊が行われる。前を行くお姉さんは、ピッとPASMOだかSUICAでチャージを支払い、もう一度スマートに私の分も支払ってくださる。

ーいや、困ります。そんな。

ーいえ、本当に助かりました。どうしようと思っていたので。ありがとうございました。ホンの気持ちですから、おごらせてください。

まあ、ナンパされたのは私のほうだったかもしれない笑。

ーお嬢さんに会えるとよいですね。今夜は楽しみましょうね。ではまた。失礼します。

ニッコリ笑顔でお姉さんは会場の人の林の中に消えていった。

いい流れでここまでこれたな。きっとライブもいい。そんな予感。ふと肝心の長女を思い出す。LINEすると、なんと今まだ家にいるという。マジか。さすが私の娘だ。何かに夢中になっていて時間を忘れていたらしい。間に合うの?いや間に合うわけない。いいよ、遅刻しておいで。慌てないで、走らないで、普段通りにおいで。ママは、先に楽しんでいるから笑

ライブは、変な言い方だけど、くるりは、CDと同じ演奏と歌唱だった。ライブのほうがいいとか、ライブだと下手とか、大抵ギャップがあると思うんだけど、スタジオでも武道館でも、Zeppでもどこでも安定して同じ音を出せるということなのかもしれない。それは長女も同じ感想を持っていた。

あと、岸田さんが、高校生の文化祭みたいに楽しそうに音と遊んでいて、初期のライブとその様子が全く変わらないのが嬉しかった。赤毛の眼鏡としては、眼鏡の教祖ここにあり、っていうか笑 20年以上のキャリアを持ちながら、音を出すのが楽しくってたまらないからやっているんだ、目の前に観客がいてもいなくてもそれは同じみたいな、初期衝動をそのまま再現しているのに感動してしまった。

インストルメンタルも、体感では8分くらい演奏していて、あのー、私たちここにいるんですけど、お忘れでないですよねって途中心配になるくらい、ギュインギュイン、グワングワン、頭ぶんぶん振りながら演奏していて、終わったときはちょっとホッとしてしまった笑

「EVERYBODY FEELS THE SAME」を歌った時もあんまり盛り上がりすぎたせいか、岸田さん、これで終わりと思ってしまったみたいで、隣の佐藤さんがモウイッキョクあるよって焦っていたのも、彼らの関係性も透けて見えて、岸田さんの素も感じられて、すごくほほえましかった。私的にもあれで終わっても全然よかったと思う。完全燃焼感があった。岸田さんが、次の曲は、200パーセントの力を出し切って歌いますって言って、ラストを歌い始めたのもカッケーと思ってしまった。終わったと確かに思ったけど、次の一曲はおまけじゃないんだぜって。

バンオバにスタンディングは死ぬんじゃないかと、壁の花候補満々で行ったけど、何のことはない、3時間弱、脳みそくるりに漬け込んで、踊り狂ってあっという間にダダダンと夏の花火のように終わってしまった。

ん、そういえば、長女?どこ?帰りは?

ー別々に帰ろうよ。

ーうんわかった。気を付けてね。

方向音痴の母は、ライブの余韻に浸りすぎて、赤い電車に乗れば安近短なのに、なぜかモノレールに載ってしまい、浜松町で降ろされる。東京タワーに引かれてしまった。金曜の夜というのに深夜近くまで残業のサラリーマンの方々にガッチリ脇を固められて居心地が悪い。半泣きでなんとか軌道修正しながら遠回りして自宅にたどり着く。

ふと、長女?今どこ?

ー目黒。だよ…。

ーは?目黒?どうやったら羽田からうちに帰るのに目黒に?迷子?

どうやら羽田から京急線を横浜方面に乗ってしまい、さらに寝てしまい、気づいて戻ろうとして再度電車を乗り間違えて目黒駅に出たらしい。ミラクルだ。なんとかGoogle さんに導かれ新宿にでてやり直すつもりらしい。NAVITIMEによると終電までには帰れるらしい。うん、わかった、気を付けてね。ママは先に寝てるよ。

母娘の方向音痴を存分に発揮して、ライブの余韻を胸いっぱいに、更け行く夜に。



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