愛していると言ってくれ⑦
「私はあの商社マンだね、ま、年収はいいし出世したらいずれ駐在マダムも夢じゃない!」
「なら私は斜め向いの広告代理店で手を打つか」
レイコとマリは、今の今まで目の前に鎮座していた男たちの品評会で盛り上がっている
「ねぇ、メイは?誰狙い?」
「私、そうだな、今日は収穫なしだね」
「えー、メイいっつもそれじゃん。理想高すぎない?」
「ふふふ」
冷めた肉を突きながらメイはふと思った
「親の馴れ初めってなんだったっけ」
ぶっちゃけどうでもいいと言えばそれまでだが
あまりに知らないことが多すぎてメイは記憶を辿る
父と母は再婚同士
って言っても好きでくっついたわけじゃない
父は離別
母は死別
メイが生まれた昭和の時代、死別とは言え
一度結婚した女が実家へ出戻るというのは
相当な風当たりだったようだ
しかもそこには未婚の姉と年老いた父親
母は簿記とそろばんの資格を持って働いていた
当時の女性としては自立した人だった
だがこと男関係となると
その自立心がどっぷり依存心へと変化する
最愛の夫は死んでしまい
心の拠り所が欲しかった
そんな時に出会ったのが父だった
さして好きでもない
前の夫に比べたら見劣りする
けれどいないよりマシ
そんな気持ちで付き合って
子供ができたから籍を入れた
その子供が私だった
「なんて安直」
メイの口から零れる言葉
メイは母から前の夫がいかにカッコよく
あなたのお父さんとは比べものにならないくらい素敵だったと聞いて育った
「お母さんってモテたんだね」
子供ながら矛盾してることはわかっている
けれどそうでも言わないと母は納得しない
結局それを体現するように
その数年後、すべてを棄てて
母は男と逃げる
母にとって大切なのは
腹を痛めた我が子ではなく
自分を女扱いしてくれる
男の存在だった