おうち画廊
誰でもみんなそうだと思いますが、人間関係で一番大事なのは信頼だと思っていて、それは、子育てをしていく上でも、一番気を配ってきたことでした。子供に対して嘘がないように。
「お母さんは思ってもいないことを言う」と思われないように、有言実行を努め、そこが損なわれそうな恐れのある時は、すかさず謝り、発言を撤回したりしてきました。
絵を描くことは、おそらくどの子供とっても一番最初に嗜むアクティビティではないかと思います。筆記具を握りしめて適当に紙に当てたら、目に見える線が生み出されるので、飽きもせず、ランダムな線を殴り描きします。やがてそれが丸になり、線と点をある程度コントロールできるようになって、何らかの認識可能なものが描けるようになります。
娘が初めて人物のようなものを描いた時、私はそれが本当に愛らしいと思ったので、たまたま家にあったフレームに入れて飾りました。娘はそれがよほど嬉しかったと見えて、同じような絵を何枚も何枚も描いてよこしてきました。
私は面食らいました。額装した絵を素敵だと思ったことに嘘はありません。しかし、二番煎じは通用しないよとか、同じものは何枚も要らないよ、とか言って通じる年齢ではありません。繰り返し描いては持ってくる同じような絵を褒めながらも、「他のものも描いてみたら?」なんて促したりして対処しました。
そのうち娘は、これはなぜ「上手だ」と言いながらも飾ってくれないのか?と言うようになりました。「フレームがないから今度買って来ようねぇ」などと言ってごまかしているうち、自分で勝手にセロテープでベタベタと貼るようになりました。放っておいたら、そのうち家の壁は大学の掲示板風カオスとなってしまったのです。
いったん「壁に飾りたくなるぐらい上手い」と思わせてしまったものを、突然否定するわけにもいきません。剥がしたら悲しませてしまうので、ここは、少なくともセンス良く飾ろうと。安価なフレームを見つけたら買っておき、娘が描いて持ってきたそばから飾って行きました。たちまち壁は娘の絵でいっぱいになりましたが、娘の方も成長するにつれて、「額装されて人の目に触れるに足る」と思う絵でなければ持ち込みをかけてこなくなったので、画廊主である私も、だいぶ気が楽になりました。
どんな絵でも、額に入れた途端に「人の目に触れるに足る」様相を呈するので、私は、子供の絵を額に入れる過程が好きでした。額に入れられたものは、絵でも文字でも、誰かにとって特別なものになって、特等席が与えられたもの、という気がします。そういうものに囲まれた生活が幸せだなと思います。
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