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時代を先取った天才の狂気【パーフェクトブルー】【映画】【レビュー】

先日、こんなツイートが流れていたことを知っているだろうか。

もちろん、実際にはこんな奇抜なラインナップを金曜ロードショーでやるわけはない。
どの作品もアカデミー賞長編アニメ映画賞候補作品に選ばれたりと、高く評価されていたことは間違いなく、アニメーションの限界に挑んだ意欲的な中身も文句なしに素敵だ。

だが、今敏(こん さとし)という監督は一般的な知名度には正直欠ける。

今でこそ大人気になってしまったけれど、しばらく前の新海誠監督に近い立ち位置の監督だった思う。残念ながら、今敏監督は今はもうお亡くなりになってしまったので、肩を並べることはできないけれど、とにかくこのツイートは大きく拡散されており、私の目にも飛び込んできた。

私はこの4作は過去にすべて見ている。
見ているけれど、見たのはもうだいぶ昔の話。思わず見直したくなっても何もおかしくない。とりあえずひとつ見るなら……と悩んだ挙句、選んだのが、ツイートでは右下に位置しているR-15のサイコホラー作品。

『パーフェクトブルー(PERFECT BLUE)』だ

◆構成の緻密さ

この映画のあらすじは簡単には説明しづらい。
何せこの映画は『三重構造』になっているからだ。

アイドルを卒業し、女優として頑張っていくことを発表した主人公霧越未麻(きりごえ みま)。アイドルとして歌を歌っていきたかった葛藤や、出演するドラマで求められるハードな役柄とのギャップ。
そんなものに、心をさいなまれ、しだいにアイドルだった自分自身の幻影を見るようになる。

アイドルと鬱。これが一つ。

時はインターネット創世記であり、まだホームページというものも一般的でない。そんなときに作られていた『未麻の部屋』というホームぺージ。そこには、まるで未麻自身が書き込んでいるかのように、日々の行動が主観的に克明に、彼女の口調を模して記載されている。

もちろん自分で書いているわけはない。恐らくこれを書いているのは彼女のコアなファン。それも、『アイドルの未麻』を熱烈に応援していた反動で、『女優の未麻』を憎んでいる。そんなファンが彼女を執拗につけ回し、その日その日の出来事を事細かに記載しているとしか思えない。

ここにも当時、まだ市民権を得ていなかったであろうキーワードが出てくる。「ストーカー」だ。

アイドルとストーカー。これが二つ目。

三つ目は彼女が出演する劇中のドラマだ。

わかりやすく言うと『科○研の女』のような雰囲気のドラマで、劇中で未麻はレイプされ、それをきっかけに多重人格障害を発症し、自らも気がつかないうちに、周りの人を殺める役どころ。
最初は、出番もセリフも少なかったが、ハードな役に変わるのと引き換えに出番が増える。結果として、それは思い描く理想と現実のギャップを際立たせ、一層未麻を消耗させる。

アイドルと劇中劇。これが三つ目の構造だ。

疲弊し鬱になり、心神喪失していくなかで、仕事としてはハードな役を演じなければならない。その役に一生懸命に向き合えば向き合うほど、未麻自身にも『現実』なのか『演技』なのかわからなくなっていく

当初、劇中劇のセリフだった「あなた……誰なの?」というセリフがある。
このセリフがキーとして、劇中劇だけでなく、劇中で何度も使われ、自分の幻覚なのか、それとも自分自身なのか、まったく関係のないストーカーなのか。相手がまったくわからぬまま、そのセリフ自体が脳内にこだましていく。

三つの要素が絡み合うことによって、現実と幻覚の境目がなくなっていく。


そして『現実』なのか『幻覚』なのかわからないのは未麻だけではない。

見ている私たちにも、どちらかどちらなのか理解できないまま物語は進行していくのだ。知らず知らずのうちに、私たちまで物語に巻き込まれ、この狂気の物語の主人公『未麻』を取り巻く一人になりさかるのだ。

これまで、スクリーンを覗き込むだけの気楽な観客だったはずの安全な立場から、偏愛に満ちたストーカが闇に潜んでおり、いつ自分が命を狙われてもおかしくない、物語の中に引き込まれているのだ。

これが、恐怖でなくてなんだというのか。


◆写実的な絵柄

見てもらえばわかるように、アニメとしてはかなり写実的な絵柄をしている。

江口寿史さんのキャラ原案も、脇役までアクがあって素敵だ。(この辺は監督の意向のようだけれど)

これがアニメらしい絵柄で、描かれていたらそもそもリアルさを感じづらかっただろう。そして、この写実性がもたらすのは単にリアルさだけではない。

物語の中では、フィクションの演出も随所に出てくる。
例えば、幻覚で見る未麻は、移動する際に重力をほとんど感じさせない。フワッと浮き上がって移動する。逃げるときや追うとき。常にそういう動きをする。もちろん現実であればそんな動きができるわけがない。だがアニメの世界なら、本来不思議でもなんでもない。

だが、ここまで写実的に描かれた世界観のなかで、そんな動きをされたときはまた話が違う。実写映画でCGか何かの特撮を使ったかのような、非現実感であり、その異常性を際立たせるのだ。

もはや監督にいいように転がされているとしか言いようがない。


◆まとめ

今敏監督作品には、こういった『現実と幻覚の融合』というのが、ひとつのテーマのような形で出てくる。

アニメーションの可能性を探っていく中で追求したいテーマだったのだろう。そんなあくなき追求がホラーという形を取ったときにこれほどの恐怖を生み出すなんて。なんで先に教えておいてくれなかったのか……と、すでに見るのは二回目のはずなのに、グチのひとつも繰り広げないわけにはいかなかった。

勿論、今敏監督の、その実力は他の3つの映画作品や、その他の作品でも繰り広げられている。

秋の夜長に、『混沌』と『恐怖』を感じたいときに是非どうぞ。


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