第13回「漫画」4分
人物
滝 浩二(35)無職
山川裕(35)滝の同級生
滝優子(59)浩二の母
〇滝家・外観
〇同・浩二の部屋
散らかった部屋。
ヘッドホンを付けてパソコンに向かう皺だらけのパジャマを着た滝浩二(35)。
キーボードを強く叩く滝。
滝「くそ」
と、ヘッドホンをくしゃくしゃのベッドに投げる。
ノックの音。
滝優子(59)の声「こうちゃん、いい?」
少しドアが開く。
滝「おい!誰が開けていいって言ったぁ?おらっ」
と、ドアを閉める。
優子の声「ひいっ」
滝「お前さぁ、いっつも返事の前に開けるだろ?聞こえてねえのかよ」
優子の声「ごめん、ね、大きい声出さないで、ね」
滝、ドアから離れてベッドに寝転ぶ。
優子の声「さっき、ね、家の電話にかかってきてね」
返事をしない滝。
優子の声「山川君、昨日、亡くなったんだって」
滝、ベッドの上で固まる。
優子の声「ずっと、治療しながらだったんだって」
滝は布団を頭からかぶる。
ベッドに積まれた漫画が雪崩を起こす。
〇同・廊下
優子がドアにもたれて体操座りをしている。
優子は壁にかけられた小学生の滝と山川が映った写真を見る。
〇同・滝の部屋
滝はベッドの上で漫画を開く。
ボロボロになっている漫画。
何度も読み返した後。
1巻から順番に積み上げる滝。
18巻まで積み、20巻を置く。
19巻が無いことに気付く滝。
滝は1巻から読み始める。
〇葬儀場・外観
山川家の看板。
〇同・内
棺の中で眠る山川裕(35)
枕元には漫画の19巻が置いてある。
〇滝家・外観(夜)
〇同・浩二の部屋(夜)
15巻を読む滝。
背表紙に「ネタばれ、一番面白いのは半分くらいのところ」
とか書かれている。
16巻を開く滝。
16巻の表紙には「犯人は○○」と書かれている。
滝は表紙を撫でて涙する。
〇葬儀場・内(夜)
喪服姿の人々が山川裕の棺の前で焼香している。
すすり泣く声。
〇葬儀場・外観(夜)
雨が山川家と書かれた看板に打ち付けている。
〇滝家・浩二の部屋(夜)
窓に雨が打ち付けている。
18巻を読む滝。
滝の涙が漫画に落ちてにじむ。
滝「なんで、こんなこともできていんだよ、俺」
と、18巻を閉じる。
18巻の背表紙に「20巻のラスト読むのがもったいない」
と書かれている。
滝「もったいないってなんだよ、俺がもってけばよかっただけだろ?」
と、大粒の涙を流して嗚咽する。
20巻を持って部屋を飛び出す滝。
〇同・玄関(夜)
急いで靴を履く滝。
優子、慌てて玄関へ出てきて、
優子「どこ、いく、の?」
滝「漫画、貸してくるから」
優子、滝の顔を見て、
優子「山川君なら、駅前の、会場だから……」
滝、何も言わずドアを開ける。
優子「こうちゃん、気を付けて、ね」
優子を見ずに走り出す滝。
〇葬儀場・内(夜)
人のほとんどいない会場。
帰り支度をする人々。
〇道(夜)
土砂降りの中、傘をさして走る滝。
〇葬儀場・内(夜)
滝は濡れた体で山川の眠る棺の前へ座る。
滝「遅くなって、ごめん」
と、枕元におかれた19巻を見て涙を流す。
19巻を手に取って表紙を見る滝。
表紙には「めちゃくちゃ面白かった」
と書いてある。
滝は20巻を枕元におく。
滝「もっと早くこればよかった、ごめん、ごめんな」
と、棺に体を寄せる。
枕元の蝋燭の灯りが何度も揺れている。
了
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