いちばんしんどかったキャンプは、自己満にあふれていたキャンプだった話
振り返ってみると一番しんどかったキャンプと二番目にしんどかったキャンプが同じキャンプ場であり、一番好きなキャンプ場で起きてることは微妙な感じだ。
福島県田村市常磐町の『桧山高原キャンプ場』
家からちょうど1時間、「今夜は山で呑みたい」気分の時に気軽に出かけられる予約不要の無料キャンプ場だ。
風車が立ち並ぶ山頂で強風が吹き荒れることが多く、テント場に登る未舗装の急坂は覚悟と勢いが必要だ。この風と急坂がハードルを上げていてファミリーやグループキャンパーは尻込みをして来ないし、ほとんどがソロキャンプ。それにタープも風で厄介なので皆んなシンプルな装備だ。週末でも5張りもテントがあれば「混んでるなー」だし、平日ならばいつも完ソロ。
だけど景色は一級品。片面だけの景色が素晴らしいキャンプ場はいっぱいあるけど、表も裏も星空も、絶景なキャンプ場はそう多くないと思う。私が利用した福島県のキャンプ場ではNo.1の景色だ。
いつも風が吹いているので、真夏でも飛行能力が弱い蚊やハエはいないので蚊取り線香いらず。むしろよほど土台を重くしないと蚊取り線香が風で倒れてしまう。椅子も強風の時は地面にペグ止めが必要だ。
マイナス面は日陰がまったくないから真夏の晴天は地獄。夏は17時くらいの遅い到着でキャンプすることが多い。テント場に拾えるような薪は一切無いから焚き火をするには薪を持参しなければならないことくらいだ。
もちろん穏やかな日もあるけど、穏やかな日に遭遇すると「良かった」と「拍子抜け」が心のなかで交差するキャンプ場なのだ。
去年のクリスマス、「今夜は山で呑みたい」気分になって急遽出かけた。
キャンプ場としては冬季クローズ中で炊事棟の水は止められトイレも施錠されているので、水とスコップ(緊急時の野糞用)持参で家を出たのが14時。
クリスマスだしパリピなキャンパーがいたら面白いかもと思いながら道を進んだ。
国道から取付道路に入って300mも進むと道路は一面真っ白、轍の跡もない。
普段はキャンプ場の管理棟が風力発電のメンテナンスをしている人たちの事務所として使われているので轍くらいは付いているのだが、どうやら仕事納めも終わったらしい。
車は非力な2WD軽、積雪も5cmくらいだったので行けるとこまで行って無理なら帰ろうと思ったのだが、滑ったり空回りしながらもテント場まで登りきってしまった。
パリピキャンパーなどいるわけもなく、当然完ソロ。真っ白なテント場には小動物の小さな足跡が点々と伸びているだけだった。ネズミやウサギの運動場化しているテント場に一泊お邪魔させてもらった。
風は秋に穏やかだった分を年内に消費しようとしてるかの如く弩級の西風。風車も勢いよくブン回っている。
穏やかならば、ドームテントを組み上げてから最適な場所に移動してペグを打って固定するのもアリだけど、そのつもりで建てている最中に風に煽られてテントが転がっていったりタープが破壊される様子は何度も見ている。
そんな過酷なところでキャンプをすると、まるで風に立ち向かう勇者になった気分になる。
のんびり穏やかなキャンプを望む人はテント場の下の池の近くにテントを張ればいい。いくらか風は遮られている。トイレも炊事棟も近くてテント場よりも便利だ。
ただし、地面が斜めってるのと水辺が近いので蚊は多いかも知れないし、立ち寄るギャラリーの視線も気になる理由から私は設営したことはない。
長靴に履き替えてテント分の雪を払って設営。もちろん風上からペグを打ちながら立ち上げなくては吹っ飛ばされる。このテクニックもここに何度か来るうちに習得してしまった。
焚き火台も風下にセットが終わり、用意してきた鍋を楽しむ予定だったけど、とてもじゃないけど強風に身をさらして外にいるのは10分が限界、露天一人鍋は早々に諦めて焚き火は即終了。
テントに入ってストーブ天板調理に変更した。
ここからは室温20℃のテントの中で寒さ知らずの一人宴会で酔っ払い、ストーブを点けたまま寝落ちという通常の桧山冬キャンプ。グオングオンと頭上で唸り続ける風車の音を子守唄にして朝になった。
想定外だったのは夜半から雪が降ったこと。積雪量は10cmに満たない軽い雪だけど、ホッカホカのテントに降ってきた雪は暖かテントで溶けてすべてスカートの上に滑り落ちて氷になる、スカートはカッチカチに凍った氷でしっかり地面と一体化していた。この状態は桧原湖でワカサギの穴釣りをした時と一緒だった。
氷が付いたままの重いテントを担いで吹雪の氷上を歩く撤収のしんどさを覚えているので朝は急がない。天気は晴天、時間が経てば溶けるだろうと安易に思っていたけど、止まない寒風は手強かった。
テントの中は暖かいのでストーブの天板調理で鍋の残り汁でウドンの朝食を食べ、コーヒー飲んで、米を炊いて目玉焼きの昼食も済ませても、スカートに付いた氷は剥がれる兆しもない。
ハラを決めて撤収作業を始めた。テントを空っぽにするまでは難なく進んだのだか、スカートより上部は完全乾燥してるのにスカートと一体化した氷の塊が外れない。
完全乾燥して車に保管、家にはキャンプ用具を持ち込まない主義なので、どこか陽当りのいいキャンプ場でもう一泊することにした。
スカートをハンマーで叩いて地面から分離させ、氷の塊ごと40Lのゴミ袋にぶち込んで撤収終了。
麓の有料キャンプ場(いわなの郷キャンプ場・1100円)に移動した。
無風の晴天、お陽様の力は大きく、陽当りの良い芝生にテントを建てたらたちまち氷は無くなって完全乾燥。イワナの郷では夜中にタヌキに肉を盗まれるアクシデントもあったっけ。
これがしんどかったキャンプ第二位だ。
第一位は春の初めの3月30日、同じ桧山高原キャンプ場。予報では「しばらく春のポカポカ陽気が続くでしょう」とのこと。
まだ冬季クローズ中だけど、どうしても試してみたいサイトがあったのだ。
いつも設営しているテント場から池を挟んで対岸の丘の上にある東屋横。
初めてこのキャンプ場に来た時、キャンプをした形跡も見当たらずほんとにキャンプしていいのか不安になって市役所に電話した時に、「フリーサイトですからお好きなところを使ってください」と言われたのを拡大解釈、自己判断で丘の東屋横に泊まってみようと思ったわけだ。
前回の夜中の雪に凝りてウェザーニュースでしっかり予報を確認。
気温は一桁だけど風速は3m、雨の予報もない。まだクローズ中だけど、これならイケそう。
国道からの侵入道路の路肩には雪が残っているけど、道路の真ん中は乾いているので難なく到着。
まずいつものテント場に寄ってみる。誰もいない安定の完ソロ。でも今日はここじゃない、今までテント設営してるのを見たことがない新しいサイトだ。通い慣れたキャンプ場でもサイトを変えることで初夜のようなドキドキがある。
池の手前の駐車スペースに車を停めて歩いて現地を視察。
池の周回路をここまで頭から入って、手前のちょっと広いところで3回も切り返しもすればUターンができそう。Uターンしたらバックで15m、ちょっと地盤はゆるいけれど丘の下の荒れ地に斜めに突っ込めば、たとえ車が入ってきたとしても邪魔にならない。下り斜面だから多少ぬかるんだとしても脱出はできるだろう。
この東屋、たいていならば階段などのアクセス路があっていいはずなのに、なぜか道は無い。完全に独立峰化している場所に建ててある。
下見のルート通りに車を停め、見上げると東屋まではけっこうな傾斜。
これは持っていく、これはいらないと慎重にギアを選んでリュックに詰める。冬用寝袋をカラビナでリュックに留め、食料やガスボンベを入れたトートバックを片手に持って丘を登る。なにしろけっこうな傾斜、片手を空けておかなきゃバランスが取れないかも。
今思えば、これでも荷物は多すぎた。今ならもっと少量で済むはず。
よろめきながら東屋までたどり着き、東屋にリュックを置く。
え?なにこの風。風速3mなんて大嘘。クリスマスキャンプのテント場よりもずっと強烈、しかも冷たい。
考えてみれば標高約1000mのキャンプ場に計測機器なんて置いてあるはずもなく、ウェザーニュースの数値は麓の町のものなんだろう。
とにかくテントを建てなければ。
ところがテントはリュックの底、詰める順番も考えなきゃいけないことを学んだ。リュックの上に詰めたものを取り出して東屋のテーブルに置くが風で飛びそうになって重しを置いたり、地面に置いたりでなんとかテントを取り出す。
テントの袋からグランドシートを取り出して仮ペグを打って押さえたらY字型のポールをハトメに差す。ここで背後でバターンと音がした。2Lの水入りペットボトルが風で倒れた。マジか?
インナーテントをY字ポールに引っ掛けて立ち上げた途端に風を受けてポールがぐんにゃりたわむ。早くフライシートをかけて押さえ込まなきゃ。Y字ポールにテンションを掛けて仮ペグを調節して本気で打ち込む。フライシートにテンションを掛けながら風上からペグを打ってテントを抑え込む。いっそう風を受けてテントがたわむ。風上のガイロープをピンピンに張ってなんとか安定した形になる。風下のガイロープも張り、風上側に更にガイロープを2本追加。これでなんとか風に負けないテントになった。
当初の予定では東屋をリビングにして調理や焚き火をするつもりだったけど、それどころじゃない。風に飛びそうなものはテントの中に入れるしかない。東屋のテーブルの下の地べたに重さがあるものを置いて、残りは全部テントの中へ。
ところが今日のテントは軽さ重視の狭い一人用テント。
テントの中に銀マットと寝袋をセットして荷物を入れたら寝返りもできない。
とりあえずテントに入ってコーヒーでも飲もうと、テントを締め切ってアルストで湯を沸かし始めたんだけど炎が風に揺らめいて安定しない。スカートが無いテントなのでフライシートと地面の10cmの隙間から風が通り抜けるのだ。
普段使いのドームテントもティピーテントもスカート付き、テントの中を風が吹き抜けるってのは初めてかも。通気がいいのはいいけれど、寒風ピューピューは辛い。スカートのありがたみを実感した。
寒風にさらされて、とてもじゃないけど野外活動は無理。テントのテンションロープとガイロープをもう一度ピンピンに締め上げて、籠もりキャンプに移行するしかない。
火も炊けないのでテントの小さな前室でポケットストーブを風防で覆って固形燃料で飯を炊き、寝袋を後ろに追いやって作った空間でアルストでインスタントの宮崎辛麺を作る。年甲斐もなく大食漢なのでインスタント袋麺だけでは眠れないのだ。
辛麺を食べ終わったら飯をぶち込んで辛雑炊にでもするしかない。超空腹だったから辛麺を食べ終わり(汁は雑炊用にたっぷり残して)トイレに走りたかったが、炊飯が終わるまでテントを開けられないし、強行突破に失敗すれば風防もクッカーも倒しかねない。これは辛かった。
もちろんトイレは風下に向かって獣避けも兼ねたマーキング方式。こんな時いつも♂に生まれて良かったと思うけど、まかり間違えて風上に向かってマーキングをしようもんなら大惨事になる。強風下のマーキングは風向きも確認しなくちゃならない。
残りスープに飯をぶち込んで腹を満たし、あとは芋焼酎を馬鹿みたいに呑んで睡眠導入液にするしかないのだが、銀マットの上に胡座をかいて呑みだすと風が通って寒い。寝袋に入れば暖かいんだけど焼酎が呑めない。
幼児や被介護老人が使うキャップ付きストロー装着可能なマグカップがあればと願う夜だった。ランニング用の給水ボトルで酒を呑むのもアリかも。
次回からはボトルもキャンプ用品として車に積んでおこう。
朝は来たけれど、風は夜通し吹いていて朝になっても弱まる兆しもない。
朝飯はパスして気付けのコーヒーだけ飲んで撤収作業に入った。なにしろ狭いテントの中では方向転換もままならず、寝袋を袋に詰めるのも銀マットを畳んでまとめるのも一苦労。
テントを畳むのも、建てた時の逆回しで風下から慎重に順を追ってやらないと吹っ飛ぶ始末。のんびりの欠片もないキャンプだった。
こんな辛いキャンプ、全然楽しくなかったキャンプも、思い出してみるとすごく面白かったのだ。辛いキャンプになるのは薄々わかっているのに、なんでこんな馬鹿みたいなことをやってしまうんだろう?
その銃爪は、完ソロなので一切他人の目を気にしなくて良い気軽さと、ただの自己満足でしかない。
頭の中では「おめでとう◯◯さん、ついに冬季未踏峰の桧山高原キャンプ場東壁東屋ルートを初登頂!」のテロップが流れていた。この自己満足がすごく大事。
ぜんぜん映えないし、拍手をくれる人もいない。人に言ってもこんな些細なことは「くだらねー」と一笑に付すんだろうけど、立てたプランをやりきった満足度は大きかった。
高規格なキャンプ場の冬キャンプ用に整備されたフィールドで、車両横付け、電源まで使ってするキャンプもそりゃあ楽しいと思う。でも、しっかりお膳立てされたキャンプよりも、アクシデントに耐えながら我慢と工夫に四苦八苦するキャンプも悪くない。
達成感はずっとこっちの方が上なんじゃないかな?
高規格な高価なキャンプ場は使ったことがない妬みが大きいのは認めるけど、こういうキャンプが私には分相応、自分には合ってると思う。
強風で外にも出れず、テントの中も風が吹き、酒さえも呑めず、ロクに暖も取れないテントの中で寝袋にくるまって朝が来るのを待つだけの一夜。
これがしんどかったキャンプの映えある第一位だ。
もちろん後日、穏やかな春陽気の日に焚き火を含めた楽しい東屋キャンプに再チャレンジ、しっかりリベンジを果たした。前回の教訓を活かして運び上げる荷物もずっと少なくて済んだ。
こんな性分だから、今までほとんど誰もやっていない「ティピーテントのゼロポール化」なんて発想も浮かんでくるんだと思う。
キャンプは楽しんだもの勝ち。その最上位が自己満足に満たされたキャンプだと思う。
ニューステロップが流れるようなキャンプ、次はどんなことをしてみよう?
絶賛模索中だ。