はやま湖展望台(ゲリラキャンプ)
絶景が広がっていて、整地された広場があって、石のテーブルや椅子まであって、清掃されたトイレもあって、水場もある。震災前はキャンプ場として機能していた。去年までは展望台前までの草刈りだったけど、今年は最深部まで草が刈ってある。そのうえ人がいない。
完ソロ大好きなキャンパーなら「泊まってみたい」と思うのは自然のことだ。
だけど不安なこともある。ここはキャンプ場として認められているんだろうか?
役場に電話一本入れれば解決する不安なんだけど、「ダメー!」と言われたら大手を振ってキャンプはできない。それがいちばん怖かった。
とりあえず無届でゲリラ的にキャンプをして、翌日役場に聞いてみようかな。
一昨日のキャンプが雨撤収だったのでテントを乾かさなければならない。だからテントを干すためだけに出かけた。家から30km、峠を攻めれば35分で着く距離。何年ぶりだろう?ダウンヒルをテールを滑らせながら走ってしまった。
だーれもいない。
まあ、テントを干すためだけに来たんだからサクッと建てよう。20cmのアルミVペグで十分だろうと設営にかかったら、このキャンプ場を作るときに念入りに整地したらしく地面から10cm下には石が敷き詰められているみたいで、アルミペグでは刃が立たず最初の2本がたちまちポッキリ折れた。でも、石が入っているから水はけは良さそうだ。
こりゃダメだ。干すだけとは言えきっちり建てよう。
無風だけど、いつ何時突風が吹くかも知れない。30cmの鍛造ペグ13本を根本まで打ち込んでガイロープもしっかりピン張り。
あとは乾くのを待つばかり。
じっと待つだけってのは性分に合わないらしい。
気がつけば車からキャンプ道具一式を運び込んでいた。そのうえ無意識に冷えた缶チューハイ、それも2本め呑んでるし…。
こんなはずじゃなかった。きっと「太陽のせいだ」まるでカミュの『異邦人』だ。
もうすぐ陽も沈み始める時間だし、ほろ酔い気分でもし事故ったら…「太陽が悪いんだ」の理屈が通用しないのは十分承知している。安全のために宿泊しよう。幸いにも夕食のおかずに味付け肉も買ってあるし、芋焼酎も前回の残りがたっぷりある。
たとえこの場所がキャンプ禁止の場所だったとしても「安全のための緊急避難的宿泊」なんだから咎められることはないはずだ。
狭い軽自動車で寝てエコノミー症候群の危険を回避するためにも、たまたま干し終えたテントが建ったままなんだから、足を伸ばして寝た方がずっといいはずだ。
完璧な理論武装に満足。
不本意だけど、安全のためにキャンプすることにした。
泊まりが決まれば、獣除けにラジオを点けて獣除けの焚き火の準備。倒木や落枝を拾ってきて製材だ。
結局誰に咎められることもなく清々しい朝が来た。
ここは「キャンプもできる公園」なのかも知れないな。
もっとも、人家の明かりは見えないし、ダムの管理事務所も夜間は無人だろうし、一昨日のボンファイヤーのような炎を上げない限り、焚き火してるのもわからないだろう。
対岸の道路もまったく車も通らないので通過音さえも聞こえない。不思議なことに虫の音もウシガエルの鳴き声も、無風なので木々のざわめきも無い、サウンド・オブ・サイレンスな夜だった。
二日酔いにもならず安全運転で無事帰宅。
さっそく役場に電話してキャンプができるかを問い合わせた。
キャンプは不可!
管理する人もいなくてまったくの無人なので『なにかあったとき』のためにキャンプはしないでください。キャンプする時は「あいの沢キャンプ場」の利用をお願いしますとのことだった。
やっぱりね。行く前に電話しないで良かったかも。
ゲリラ的にやっちまった後に聞いてよかった。
まあ、そう言われれば納得するしかないけど、正直言ってあのロケーションはもったいなさすぎる。
車は横付けできないし、駐車場から展望台までの登りは大荷物のキャンパーは辛いかも知れない。人もいないから見せたがりキャンパーの満足度は低いかも知れない。トイレはボットンだし、水場も水飲み場的なものだけど、それを承知で行くキャンパーには無料開放して欲しかった。
でもね、
あの景色は、もしもたまたまアルコール含有飲料を持ってたら無意識についつい飲ませてしまう魔力がある。
魔力にはめっぽう弱いので「えーーーっ、知らず知らずに飲んでしまったよ。しょうがない、なにより安全第一。キャンプに来たわけじゃないけど、緊急宿泊するしか無いな。」ということが無いとは言えない。
むしろ頻繁に起こりそうな気もする。
重大犯罪の酔っぱらい運転よりは安全な緊急宿泊を選びます。
震災後手つかずだった代償は大きい。
たとえば、草刈りはしたと言え、そこかしこに残るススキの株はかなりの難物だ。根はしっかり残っているからすぐに再生するのは間違いない。
ある程度の利用人数がなければ継続した整備も期待できないかも知れない。
詳しくは聞かなかったけれどデイキャンプは可能らしい。
でも近くに人家もなく、南相馬市鹿島区や担当行政区である飯舘村の直近の商店からも10km以上離れているし、ゴミはすべて持ち帰りのルールのために、ゴミ箱も設置されていない。焚き火をしたところで発見される危険性も少ない。
となると、今の状態をいつまで維持してられるかも心配だ。秋の紅葉シーズンなどはすごい景色になるだろう。そして足元にはゴミや直火の跡が散乱なんて未来も十分予想できる。
家からそう遠くもないし、定期的に自主パトロールはするつもりだ。
絶景に釣られて、思わずアルコールを体内に入れてしまうこともあるかも知れない。そんな時は安全第一、迷わず泊まる。
こんなスタンスで見守っていこうと思っている。