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ルックバックをみて    らーゆ

ルックバックとは

 ルックバックはジャンププラスで掲載された、チェンソーマン・ファイアパンチの藤本タツキによる長編読み切り作品である。2021年夏に掲載されたこの漫画作品は、当時大きな話題となった。藤本タツキの才能を内面を、優しく描いた作品だと、私は当時思っていた。いろんな業界人がほめていたし、私だってその熱狂の一部だった。まず、漫画を読んでいない人は、550円で簡単に読めるので読んでみてほしい。私たちはあくまでアニメ研究会であるから、漫画作品への言及は補足程度に。劇場アニメ作品としての、ルックバックについて話していきたいと思う。

ルックバック - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+


うるせえ感想

 
  ネタバレ注意。
   
 まず、最高な劇場アニメだってことは大きな声で言わせてほしい。劇場で見ることで意味がある、劇場アニメ。音響と映像と熱量を、一緒に居合わせた人と偶然だけど必然に、でっけぇアニメのパワーを喰らう。私が劇場で見た回は、上映から幾週かたった田舎の映画館だったので、人はまばら。友人二人と軽自動車を走らせて夜六時の上映へ。一時間の上映だったが、私と友人は目を輝かせ、1500円でここまで盛り上がるかってくらい感想会。
 その熱量が落ち着いて、アマゾンプライムでの配信が始まる季節になりました。再度視聴した感想と、初見視聴時の感想を交えて、私のうちから出る言葉でおしゃべりさせていただきたい。

ストーリー

 ストーリーに関しては、漫画版の高評価ぶりを見ればわかり切ってる最高さ。長編読み切りと言っても、読み切りは読み切り、起承転結がわかりやすく、すっきりとした終わり方。その中でも漫画に対する藤野京本の姿勢が、多くのクリエイターを感動させたらしい。
 私はクリエイターなんかじゃない。藤野みたいに、なにくそ根性で物事に取り掛かったこともないし、京本みたいにひたむきに真摯に苦しんだこともない。その姿にはいくらでも憧れたことはあるけれど、あるけれど止まりだ。彼女らみたいなエンジンが、私には詰まれていない。藤野と京本のこの物語みたいな話は、この世にいくらでも転がっている。
 
 才能があるやつらが才能がある前提の世界で踊ってるだけだ。って思うこともできる。

 それをさせてくれないのが”ルックバック”。京本は藤野に大きな憧れを抱いている。これは、私たちブンカ享受ピープルがあらゆるクリエイターに抱いているものとおんなじだ。彼女はしかもその憧れを原動力に、その憧れに近づこうともがいている。もがくために一度離れたし、より努力をした。でも、半ばで死んでしまうのだ。しんでしまうのだ。
 私の憧れがこのままに。憧れが憧れのままに。遠くのものだという認識そのままに、私が死んでしまったらどうだろう。そういうことを考えると、無性に走り出したくなる。止まってはいけないなと思う。
 
 小学生の藤野の気持ちはみんなわかるんじゃないだろうか。あのくやしさ泣き出しそうになってしまう、自分の世界が崩れる瞬間。最近読んだ町田康の告白でも世界の崩壊があった。駒回しの達人だと、近所親戚からもてはやされた主人公が、街の悪ガキどもの駒遊びとの歴然の差に気づくというものだ。私だったら、ずっとやっていたスイミングスクールに、四つも年下なのに私より泳ぎが早いやつが来た。とかだ。皆さんにもあるでしょう?
 その崩壊に私はあらがわなかった。受け流すようにして生きた。藤野とは逆だ。藤野は立ち向かい、ぽきっておれて、私みたいになった。でも、新しいエンジンを積んで、おんなじ道を走り始めた。私にも、そういう存在が欲しかったと切に思う。今は今で私なりにやっていけてるが、藤野京本のような出会いが13歳の私にあったのならと思ってしまう。
 
 残念ながらないものねだり猛々しいので、今あるもので精一杯をやりましょう。藤野のように成功しなくとも、京本のように熱中できなくとも、憧れの炎はいまだ芽吹き、熱をそのままにしているから。(なんかぽいことを言っているだけ)

アニメーションに関して

 いろいろな気づきがあります。私にはまだ語る知識はないですが、気づくことはできました。

 まず多用しているのは、スライドショーアニメーション(あってるのかわからないけど)。一枚絵を順繰り順繰り見せていく。省コマ技術かつ、見るほうに思い出を刻むのにとても効果的なやり方。一時間の中で、二人の関係性をすべて洗い出すのは難しい。なので一枚絵の連なりを私たちに見せることによって間を私たちの中で補完するのです。藤野京本の思い出はアニメの中だとそんなに描かれてない。でも京本が死んだときに泣けるのは、効率のいい思い出の断片の提供があるからです。その一枚一枚が、生活をしっかり映していて、とってもきれい。

 あと雨の中藤野が走るシーンがいくらでも見れますね。にっこにこになります。私も田んぼのあぜ道をあんな感じで大声で歌いながら走ったことあります。不格好な藤野の走りは、漫画では見開き。アニメだと様々なヴァリエーションをもってお届けされます。なんばスキップになったり水をなでたり。全身で喜びを表すところに好感が持てますよねーー。
 
 京本が襲われるシーンの演出も、とっても良かったです。テロップで第三者が過去の出来事として事件を語る。第三者が語ると冷たさが増して、より恐怖感があおられます。テロップの淡々さも、警察の調書を読んでいるようでぞわっとしました。

 繰り返される、藤野の後ろ姿。それは一人だということの証明でもあり、”ルックバック”ということでもあるんでしょう。最初の後ろ姿も、とってもいいんです。でも、最後の後ろ姿もまた違った見え方がしてきて素敵やね。
 
 京本が藤野に手を引かれていくシーンは、二回ほど繰り返されました。作画が良すぎるから、ここでもう泣きそうになってしまうんだけど。あんなに純粋なのにもーーーーーー!!!!!

 私は丁寧なアニメが大好きです。どのアニメーションものびやかでリアリティのあるものでした。モブの細かいてばすらや、うなずき。こだわりフェティズムがもんのすごく刺激されました。

背景と舞台と監督について

 ルックバックの監督さんは、押山監督です。押山監督は郡山出身なのです。つまり私たちと同郷。なんだか親近感がわいてしまいます。代表作には「フリップフラッパーズ」「フリクリ オルタナ・プログレ」などがあります。
 
 私は初見の際、押山監督のことを知らずに見ていました。でも、漠然とですが「なんか東北っつーか福島の臭いがする」と感じました。その感覚は当たっていたのか押山監督は郡山出身。何かありそうと思っています。でもその答えは見つかっていません。その答えの種になりそうなものだけを今ここでお話ししたいなと思います。

 田舎がアニメで描写されることは少なくありません。でもそれを、本当の田舎だと感じることは少ないと思います。ある程度デフォルメされた田舎がチューニングされた田舎がエンタメの中にはあります。
 このルックバックでは背景が田舎すぎると思います。東北にはこういう景色がごまんとある。私の地元にでも、福島にはたくさんある。どこを向いたって山がちらつく。鉄塔がちらつく。
 
 教室の左側の窓からはグラウンドが見えますが、右側の廊下を挟んだ窓からも自然が顔をのぞかせています。ビニールハウスにあぜ道。家の並ぶ間隔。すべてが懐かしく思えます。

 室内の暗さもちょうどいい。暗いけど暖かい感じ。すんごいリアルだなって思いました。
 
 京本の家の作りとか、街並みとか、本当に雰囲気だけですけど、田舎っぽい。

 これはロケハンによるものなのか、押山監督の作家性によるものなのか私には図ることはできません。福島出身のアニ研メンバーと押山先生の作品を研究し、見極めていきたいところです。

※追記 ロケハンのおかげでした!!!!秋田県にかほ市です!!!!!今度行っています!!!!!!まぁ、それでも東北の臭いがするのは変わりません。

 

総評

 ここでは語りませんでしたが、音楽も素晴らしかったです。ほかにも一カット一カット語れるくらいにはこのアニメは歴史的にも素晴らしい作品です。アマゾンプライムビデオで配信中なのでぜひ見てください。今回も雑多なレビューでしたが、いかがでしたでしょうか。近日中にもう一人のメンバーによる感想も投稿されます。読み比べてみるのも面白いかもしれません。

この感想を書いて、ルックバックを見てアニ研を作ろうってなった人
らーゆ Twitter @yunotatemae

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