その目には、何が映る(マツダケン作品集/マツダケン)
同じ目で、同じものを見ても、その目には違うものが映る。そういっていたのは、誰だったろう。
たとえば、道端の花一輪。
ただの雑草だと思う人がいて、可愛らしいと思う人がいて、そもそもまったく認知していない人がいる。
なので、ソレについて語ることは、なかなか難しい。なぜなら、自分が思い描いていることと、相手が思い描いていることは、違うから。自分の目に映ったものが、相手の目にも映ったとは、限らないから。
けれど、ソレを知ってほしい。自分の目に映ったものを、自分以外の人にも見てほしい。人は、どうにかこうにか、ソレを伝えようとする。だから、語る人がいて、書く人がいて、そして描く人がいるんだと思う。
*
マツダケンさん(@keso901005)の個展に、一度だけ訪れたことがある。
ツイッターでもちょくちょく拝見していたのだけど、実物を目の前にすると、作品の息遣いが、より近くに感じられた。
動物の息遣い、昆虫の息遣い、草花の息遣い……。まるで、深い森の中にいるようだ。作品に触ってしまわないように気を付けながら、僕は森の中を歩いていた。
僕が目にした生物は、この森を訪れなければ、出会えないものばかりだった。苔むすサイ、愛らしい花を咲かせる小鳥、誇りをたたえた神々の生物……。やあ。キミは、初めましてだね。キミは、二度目ましてかな。キミは……遠くから眺めるだけにしておこうか。
僕は、足の向くまま、奥の方へ奥の方へ進んでいった。本当は、自ら進んだんじゃなく、導かれていたのかもしれない。気付いたときには、僕は森を抜けていた。そこが、個展の終点だった。
だから、今回の作品集を手に取ったとき、まっ先に、そのときのことを思い出した。記憶の中で、個展会場にいる自分と、森の中にいる自分が、重なった。
ああ、そうだった。僕は思った。僕はまた、この場所にやって来たんだ……。
当たり前だけど、この作品集を手にしているのは――というより、マツダさんの作品を目にしたのは、僕だけじゃない。
僕は、マツダさんの作品を通して、自分以外の生物の息遣いを感じることができる、深い深い森にやって来た。
じゃあ、他の人達は?
僕と同じように、深い森に迷い込んだんだろうか? それとも、稲穂が茂る平原に? 四季が移ろう山の中に? 街からあまり離れていない郊外に?
他の人達は今、どこを歩いているんだろう?
*
同じ目で、同じものを見ても、その目には違うものが映る。
君は?
鮮やかに生けるものを、目にした君は。
その目には、何が映る?
マツダケン作品集/マツダケン(2020年)
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