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縁切り神社に行ったらアイドルになれた話

 当時の私は、全てに絶望していた。
 ブラック企業(たぶん)(他の会社を知らないので比較できない)に就職してしまい、身も心もすり減らす毎日。チョコラBBハイパーの素晴らしさを知ったのもこの頃だ。

 毎朝栄養ドリンクやエナジードリンクを飲みながら出勤し、仕事帰りには暴飲暴食を繰り返す毎日。週2でハンバーガー、週2で寿司。残りはコンビニ飯である。土日はもちろんウーバーイーツだ。
 ほかにも、スーパーで大量のお菓子を買いこみ、暇さえあれば食べていた。食べている間だけは、微かに幸せを感じることができた。おかげで今より10kgも太っていた。仕事に追われ、私生活も荒んでいた。

 現状を変えたいという気持ちがなかったわけではない。本当はやりたいことをやってみたかったし、もっと楽しい人生を送りたいと思っていた。
 ただ、そんなエネルギーは残されていなかった。
 もう打つ手がない。


 ……そうだ、縁切り神社に行ってみよう。


 非科学的なことは信じないタイプだし、初詣にすら行かない人間だったが、当時の私はとにかく疲れきっていた。もう神頼みしかないと思い、ある日の終業後、都内で有名な縁切りスポットである『縁切榎』に足を運んだ。

もちろん当時は記事にしようなどと考えてはいなかったので、雑な写真しか残っておらず申し訳ない。


 都営三田線・板橋本町駅から歩いてすぐ。
 下町情緒あふれる商店街の一角に、縁切榎はあった。

 非常にこじんまりとしているそれは、意識していないと見逃してしまいそうなほどだ。
 敷地内には、お参りをするための祠と、絵馬を奉納するスペースがあった。

 このnoteを書くにあたって、当時のことを思い返していたのだが、絵馬を書いたかどうかを思い出すことができない。写真に残っていないということはおそらく書いていないのだと思うのだが、書いたような気もする。本当に何も思い出せない。
 絵馬については完全に記憶喪失だが、祠へのお参り(もとい一方的な祈り)をしたことと、その内容は記憶に残っている。  

 祈りの内容を詳細に明かすことはできないが、だいたいこんな感じで祈った気がする。↓

(仕事の悪)と(家庭の悪)と縁を切りたい。あわよくば、その先の未来で自分のやりたいことをやりたい。

「やりたいこと」とはもちろんアイドルのことである。私は幼少期からずっとアイドルに憧れていて、何度かオーディションを受けたこともあったが、全て書類審査落ち。そもそも、自分がアイドル向きのルックスではないことにも気づいていた。書類で落ちるって、そういうことでしょう。残酷だが、世の中はそのようにできている。
 だから、神に祈れば叶うかもしれないと思ってしまった。

 祈りを済ませたあと、縁切り榎を訪れた「証」が欲しくて(あとは少しでもお金を落としたほうが縁切りに成功しやすいのではないかという下衆な考え)、敷地内に設置してあったガチャガチャ(おみくじ)を回した。

大吉しか入ってないんじゃないか疑惑


 1回100円(当時)。
 なんともリーズナブルな祈りである。


 それから半年間は何もなかった。
 これまでどおり、ブラック企業で怒られたり偉い人の怒号を聞いたり、残業や休日出勤を繰り返す日々。
 もともとそれほど期待していたわけでもなかったし、縁切榎のことなどすっかり忘れていたが、「その日」は突然訪れた。




 仕事を辞めた。
 辞めたくても辞められなかった(辞める勇気のなかった)仕事を辞めた。それどころか、仕事の悪縁と家庭の悪縁、ふたつ同時に縁が切れた。
 事情があったとはいえ、非常に最悪な仕事の辞め方をし、ニートになった。資格も学歴もない無職の誕生である。

 人生終わった、と思った。
 あのまま働き続けていれば社会の一員として認められていたはずだが、今はどこにも所属していない。この先、私はいったいどうすればいいのか。どうしたら生きていけるのか。何も分からなかった。
 転職先が決まっていたわけでもなかったので、毎日引きこもっていた。インターネットだけが居場所だった。

 そんなどうしようもないニート生活を送っていたある日、現在の所属事務所のオーディションを受けた。

この投稿でオーディションの存在を認識した


 当時住んでいた東京ではなく、北海道の事務所のオーディションだったが、なぜか「受けたい」と思った。それも、強く強く思った。

 そこからは早かった。
 それまで書類審査を通ったことすらなかったのに、あれよあれよと審査を通過し、最終審査にも合格。北海道に移住することになった。
 移住の費用は、会社員時代の貯金で賄った。働いていてよかったな、と思った。

 そして2023年9月、北海道札幌市を拠点に活動するアイドルグループ『限りなく白く』としてデビューした。

デビューライブの写真


 アイドルになったのはもちろん、東京から北海道に引っ越したという点においても、私の人生は大きく変わっている。
 東京で激務に終われ心身を壊し死んでいくだけの人生だったはずが、今は北海道の地でゆったりと過ごせている。

 縁切榎のことを思い出したのは、オーディションに合格してしばらくしてからだった。
 切りたかった縁はふたつとも切れて、結びたかった縁を結ぶことに成功している。そのことに気づいた時、少しだけ恐怖を感じた。

 人を呪わば穴二つという言葉がある。
 縁切榎も例外ではなく、いつかは自分に返ってくるという説があるらしい。それでも私はアイドルになれてよかったと思うし、北海道に引っ越せてよかったなと思う。

 私は今でも非科学的なことは信じていない。
 縁切榎での体験は100%事実だけれど、ただの偶然かもしれない。もちろん祈りの効果なのかもしれない。それは誰にもわからない。
 「縁切榎に行った」という事実が、私という人間の行動を無意識下で変化させていたのかもしれない。現実的な落としどころはここだろう。

 みなさんも、行き詰まったときは縁切り神社に行くという選択肢を持っておくのはいかがでしょうか。

 それではまたどこかでお会いしましょう。






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