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金・銀・銅の3頭のポニイ 『ポニイテイル』 ★72★

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司書パナロはプーコの腰にまきついて、家まで少女をバビューンと運んでくれました。長いハナにくるまれた少女は、地面から30センチくらい浮いたまま、町の中をするすると空中移動しました。すれちがった人は、女の子がスーーッとゆうれいみたいな動きで進んでいることにおどろいたにちがいありません!

パナロさんの派手なきみどり色のハナは、夜の黒に変色していました。さすがです! 危ない目にあわないように、生まれつき、ちゃんと見つからないような工夫があるのです! 

プーコはパナロさんに玄関からではなく、2階から家に入れてもらうようたのみました。ペガが来たあと、プーコはもう部屋の窓にカギをかけないことに決めました。少女は一度しめたカギをきちんとしまっているか、夜に何度も起きて確認することがありました。ありましたというか、つい最近までそうでした。でもそんなこと、はるか昔のことのようです。考えてみれば、窓から素敵な何かが入ってくる可能性だってあるから!

プーコは運んできてくれたパナロさんに、お礼になるようなものを探して部屋をあさりました。残念ながら参考書や単語カードみたいなものしか出てきません。パナロは笑っていいました。

「フフ。いいですよプーコさん。それより明日、あなたにひとつお願いがあるんです」
「な、なんですか?」
「明日、ブラウニー図書館に来て欲しいの、あどちゃんと一緒に」
「わあ! 実はさっき、わたしたちの誕生日会をブラウニー図書館の屋上でやらせてもらおうって言ってたんです。パナロさん、いいですか、屋上を使わせてもらって。学校終わったらすぐ行きます」
「ブラウニー図書館はあなたたちの図書館だもの。もちろんいいわ」
「楽しみ! ケーキを買っていこう。ケーキ食べられますか?」
「ええ。でも、屋上に来る時間なんだけれど、もっと遅い時間にしてもらえるかな」
「遅い時間、ですか?」
「ええ。わるいんだけれど」
「何時ごろですか?」
「世界がしっかり暗くなった、そして月の力が極限近くに高まった夜ごはんくらいの時間。8時ごろかしら。子どもが出歩いていい時間じゃないけれど、ペガが飛ぶには月のパワーがいるみたい。わたしがこの窓までちゃんと、むかえに来ます」

プーコはニッコリ笑いました。

「わかりました。ありがとうございます」

パナロさんの声はとても明るくて、プーコは安心しました。「ひとつお願いがある」なんていうものですから、こわい話かと思って身がまえてしまったけれど、素敵な予感しかしません。パナロさんはペガとは違って、サッと、窓から屋根をつたっておりていきました。

部屋に残されたのは少女と1冊の本、『ポニイテイル』。

プーコは図書館で「今日は早く寝て、明日の誕生日に読もうと思います」なんていったくせに、1階に下りてトイレに行き、石けんでしっかり手を洗い、お菓子をお皿いっぱいにのせて戻ってくると、ベッドに寝ころんで『ポニイテイル』の1ページ目をさっそく開いてしまいました! 

少女の知っている『ポニイテイル』という言葉は、頭のうしろでたばねる髪型のことでした。ポニイが小さな馬で、テイルがしっぽ。つまり子馬のしっぽのような髪型です。少女も何度かその髪型にしたことがあります。でもこの本のポニイテイルはちがう意味で、冒頭はこんな書き出しでした。

ポニイテイルとは、金・銀・銅、3頭のポニイが、3人の子どもの前にあらわれる物語です。古今東西、世界中に、金・銀・銅の3頭のポニイが出現し、子どもたちの運命を変えた話があります。この本には世界中から集めたポニイテイルがいくつものっています。3頭はそろってこの世界にあらわれ、選ばれた3人の子どもたちとたわむれ、そろって空想の国へかえってゆきます。ポニイは12歳の誕生日をむかえた子の前にだけあらわれます。あなたの前にもポニイがあらわれるでしょうか。それは何色のポニイでしょうか。

『テイル』はしっぽではなく『物語』の意味でした。世界にはいくつもいくつも、すてきな物語があるものです!北の国には北の国らしくキラキラと澄んだ物語が、南の国には南の国らしく温かくてのびのびしたポニイテイルがありました。

深夜でしょうか、それとも明け方でしょうか。
『ポニイテイル』のページをめくりながら、いつの間にかプーコは深い眠りに入っていました。そんな少女をベッドから起こしてくれたのは黒い司書でした。

「あれれ、パナロさん。な、何か忘れ物ですか?」

プーコはねぼけた目をこすりながら言いました。

「あら? 約束の時間よ」
「え? 約束は明日の夜ですよね?」
「今がその時間よ。ほら、あそこにスーパームーン」

時計を確かめると、針は8時をさしています。
プーコはなんと、朝にも昼にも気づかず、まるまる1日寝過ごしてしまったのです!


『ポニイテイル』★73★へつづく



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Jの先生 / 藍澤誠
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