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突いてちょうだいユニコーン 『ポニイテイル』★12★

「実はね、おれ、ブラさんの助手に誘われてんだ。ていうかすでに、作文に、将来なりたいのは隕石ハンタの助手って書いたし」

「ちょ、大丈夫? そんなこと書いて……怒られなかった?」

「とくに何もなし。アイザワタダヒロをスルーするくらいだからね」

「助手って! やっぱり手下キャラだ!」

「さっき言っただろ、オレたちの書くものなんて先生は真面目に読んでないんだ。テキトーなんだよ、大人は」

「大人って。ねぇ、あんたが好きなブラさんだって大人じゃん。大人だからキライとかダサって感じなんだけど」

「ブラさんは大人じゃない」

「うんたしかに」

あどはうなづくが風は首を振って反論する。

「何言ってんの。あんなヒゲ生やした子どもがいる?」

「ちがう。ブラさんは……珍獣だ」

「あは!」

「ん?」

真神村流輝の手が止まる。

「なんだこれ、棒、か?」

「棒?」

「うほ! もしやお宝発見?!」

バンビとハムスタが素早くパンダを囲んだ。土を落とすと美しい金色が6つの目に飛び込んできた。金の棒は長い定規くらいの長さで、表面はつるりとしている。まき貝のように、ぐるぐると先たんにむけて細くなっていた。パンダはゴールドの棒を天にかざしてさまざまな角度から検証する。

「なんだコレ、おもちゃか?」

「ちがうよ!」

風が声を弾ませる。

「たぶん武器じゃない? 昔の人の。ほら、昔にも戦争があったみたいなこと、歴史で習ったでしょ。発掘された人間の頭蓋骨に矢が刺さった痕があるとかないとか」

あどはめずらしく声を荒げる。

「バカじゃない、戦争とか武器とか!」

バンビがやせパンダへ手を伸ばす。

「違うかな。材質が昔っぽくないね。やっぱおもちゃかな」

「おもちゃじゃないって! 2人ともとことんバカだね」

今度はあどが風の手から謎の物体を奪う。花園あどには、絵本でさんざん見たことがあったから、これが何かは一発で判った。

「これはユニコーンの角に決まってるでしょ」

「ユニコーン?」

風と流輝はそろって目を丸くする。

「ユニコーンって、あの羽根が生えた馬?」

「それはペガサス! ふうちゃん、獣医になりたいとか調子にのってる割には動物のこと何も知らないんだね」

「鈴原は獣医になりたいのか?」

風の白い顔がわずかに赤く染まる。やっと夕暮れだ。

「ホント、キミは口が軽いね……ていうかユニコーンは動物じゃなくて怪物でしょ。あたしはユニコーンだとかクマヤギじゃなくて、リアルな動物にしか興味がないの。わかる? あんたとちがって妄想全開じゃないから」

あどは金色の角で、風のおなかを突いた。

「痛っ! やめてよ! もう!」

「は? ちょっと前まで妄想全開だったのに! ウラギリ者!」

「もう卒業したの、そういうの。ウソの話とか架空動物とか」

「あー、そういうこと言うの。パナロさんかわいそう」

「パナロさん? 何だっけ?」

「ハナロングロング象のパナロさんだよ! 何、もう想像ごっこやめちゃうわけ?」

「ゾウの鼻はグングン伸びたりしないし、詩を読んだりしないし、オススメの本も取ってこない。それが圧倒的な現実」

「は、なに? わざとムズい言葉使ってウチをバカにしてんの?」

「おいおい、仲間割れすんなよ」

ハムスタがほほを赤らめ膨らます。

「ねえ、マッキー、この角、ウチの誕プレってことでもらっていい?」

「あ? いいけど……いいのか?」

「いいのかって?」

「それ、スッゲーイイやつじゃないぞ」

「は? 超イイじゃん! ユニコーンの角だよ?」

「それに1本しかないから……じゃあ、2人でジャンケンしろよ」

「やだ。ウチ、ジャンケン弱いもん。リンリンいらないでしょ」

「いや、いる。あたしも欲しい」

「興味ないんでしょ! 何だっけ? アットー的なゲンジツ?」

「たった今、興味が出た」

あどはユニコーンの角を背中に隠した。鈴原はじっと真神村を見つめる。バンビの水色のワンピースのすそがふわふわと、ガケの下から吹き上げる風になびいた。

「いいから、ジャンケンで決めろよ」

「ヤダ。じゃあ、わかった、いいよ、第一発見者が決めて。マカムラッチは、ウチとふうちゃんのどっちにコレあげたい?」

「ん?」

「ウチらのどっちにこの角プレゼントしたい? ほら、ウチら2人とも誕生日だよ。コレを武器とかいうふうちゃん? それとも素敵なユニコーンの角だと思ってるウチ?」

風は息をのんで返事を待つ。

「オレは――」

7月の頭にしてはクールな風が、やっと肩まで届いたあどの黒髪をふわふわとゆらす。リンリンの髪はそれより少しだけ長く茶色だ。

「オレは――」

いきなり訪れたクライマックス。

射抜いてくださいキューピッド。

突いてちょうだいユニコーン!

あたしを選んでほしい――風はシンプルにそう想った。白シャツの真神村流輝は、七夕らしくさらっと告げる。

「どっちでもいい」

風は急激にほほが熱くなるのを感じた。スコップをガケに思いきり突き刺す。

「そんなオモチャいらない」

「ねぇ、ちょっと! どこ行くの!」

「……」

「ねぇ、ふうちゃん」

「ウザいな、塾だよ!」


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ポニイのテイル★12★ 宮沢賢治記念館

2017年夏、岩手にある宮沢賢治の記念館に行ったとき、ユニコーンを発見しました。この記念館、自分たちにとっては見所が満載で、1日かけても回り切れませんでした。もう1度行きたいな。

美術館、博物館は、子どもの頃はちっとも興味がなかったけれど、今ごろになってその楽しみ方がつかめてきた。上の写真のユニコーンは、宮沢賢治そのものとは直接関係がない、離れた場所にあったんだけれど、すごく気に入っていて、ことあるごとに、何度も何度も見返している。最近では、息子の学校の展覧会に行ったときに見た、奇妙な生き物『ウニオンくん』が面白かった。

話は変わって、仕事で古文の読解をやることが多いのだけれど、セリフの発話者をたずねる問題がある。「Aの発言をしたのは誰か?」みたいな。今日アップした文章はセリフの応酬なんだけれど、それぞれの発言が誰のものかは、一瞬わかりにくくても、容易に予測できると思う。

チャットやLINEのトークみたいに、発話者を明記したり、文字の色を変えたりして、完全に明瞭になるようにする方向もあるのかもしれないけれど、『ちょっとだけわかりにくい』という状態を(書く側も読む側も)恐れる必要はないし、慣れてきてひっかからなくなってくる感じや、慣れてきたときに一瞬立ち止まる感覚なども、それぞれの物語に『チューニング』(保坂和志さんの言葉)するという観点からすると、大切なもののように思える。

想像上の誰かに対して言い訳したり、配慮したり、先回りして何かを行うのではなく、物語(あらゆる形態の表現)と自分との関係にだけ目を向ければ、そこには個人的に大切なものだけが、ゆったりと遠慮なく堂々と流れるのだと思う。

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