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99%の人が気づかない!天動説が美しくない理由とは:チ。ー地球の運動についてー

※「まるこ」は私「藍沢星那」です


1,天動説は「美しい」?「美しくない」?

まるこ:『チ。』のラファウやフベルトたちは「美しくない」という理由で、天動説を棄却するんだけど、「美しさ」って、社会的文化的に異なるものだから、イマイチ説得力にかけているように感じるんだよね。本当はもっと深い理由があったんじゃないだろうか?と。
眞人:確かに「美しさ」を理由にするのは直感的で分かりやすい反面、説得力に欠ける面がある。理由として考えられるのは、以下の点だろう

  1. 理論の一貫性と単純性
    地動説は、惑星の逆行運動を含む天体の動きをよりシンプルに説明できる。一方で、天動説は複雑な周転円を必要とし、「神の設計」という思想に基づいているとはいえ、計算の多さが「不自然」と捉えられることもあった。

  2. 数学的な優越性
    コペルニクスやその後の研究者たちは、数学的なシンプルさを「真理の美しさ」と結びつけていた。ラファウやフベルトが「美しさ」と呼んだのは、数学的な調和のことを指している可能性がある。

  3. 実用性の変化
    当時の天文学は航海や暦の作成にも直結していた。地動説の方が実際的に使える予測を生み出せるという側面が「美しさ」として捉えられたかもしれない。

「美しさ」は単なる感覚ではなく、真理や秩序への指向を含んだ概念だったとすれば、説得力を補強できる。ラファウやフベルトたちは、それを通して「古い世界から新しい世界への橋渡し」を試みていたのかもしれない。

2,現代では複雑な柄も「きれい」だよね?

まるこ:「数学的な調和」=「すっきり計算できること」だとして、それもまた当該社会文化的な価値観のはず。であれば、それはどうやって生まれたの?
眞人:「数学的な調和」や「すっきり計算できること」が価値とされる背景には、特定の社会文化的要因が深く関係している。この価値観がどのように生まれたのかを考えると、いくつかの重要な要素が挙げられる。

1. 古代ギリシャ哲学の影響

  • ピタゴラスやプラトンをはじめとする古代ギリシャ哲学者たちは、数学を宇宙の秩序を説明する鍵として位置づけた。特にピタゴラスは「数こそが宇宙の本質」であると説き、数的な調和を「美しいもの」と結びつけた。

2. 中世のスコラ哲学と神学

  • 中世ヨーロッパでは、神の創造物としての宇宙は「理性によって理解できる秩序」として認識された。神の意図はシンプルで完璧であると考えられたため、複雑さよりもシンプルさ(数学的調和)が高く評価された。この価値観は、科学と神学が深く結びついていた時代の産物である。

結論として、「すっきり計算できること」という価値観は、宗教的信仰、哲学的探究、実用的要請の中で生まれ、歴史的に形成されたものといえる。特に、宇宙を「神の秩序」として理解しようとした中世的な価値観が、この「数学的な美」を生み出す土壌となり、そこから近代科学の合理主義へと発展したと考えられる。

3,なぜ「スッキリ!=調和」なのか?

まるこ:うんー、イマイチ納得できないな。数学的な調和ということさえも、「何が調和か」は人為が挟まればニュートラルなものではなく、なんらかの理由があるものになる。なぜ、「スッキリ」が「調和」なのかが疑問。

眞人:「スッキリ」が「調和」として認識される背景には、文化的、認知的、さらには人間の心理的な特性が深く関与していると考えられる。その理由を掘り下げると、次のような視点が浮かび上がる。

1. 人間の認知的傾向

  • 単純性への好み
    人間の脳は複雑な情報を処理する際、パターンやシンプルさを求める傾向がある。この傾向は進化的な視点から説明でき、単純なルールで説明できる現象は「理解しやすく安全」だと判断されやすい。「スッキリしている」ものは、脳にとって負荷が少なく、自然と「調和」として受け取られる。

  • ゲシュタルト心理学
    人間はバラバラな情報の中に「全体性」や「まとまり」を見出そうとする性質がある。これが「スッキリ」したモデル(地動説など)を「調和的」と感じさせる要因となる。


2. 歴史的背景

  • 宗教と秩序の概念
    中世ヨーロッパでは、神の創造物としての宇宙は「秩序だった完璧なもの」と見なされていた。この秩序を反映するものが「美しい」とされたため、「スッキリ」したモデルがその価値観に合致する形で「調和的」と認識された。

  • 古代ギリシャ哲学の影響
    プラトンやアリストテレスは、宇宙には内在的な「秩序」があると考え、数学はその秩序を記述する手段であるとした。秩序=調和=美という図式が、以後の文化に深く根付いた。


3. 文化的価値観の形成

  • 道具としての「スッキリ」
    例えば、天文学や暦の計算では、複雑な天動説モデルよりもシンプルな地動説モデルが実用的であった。これが「スッキリしている=優れている」という感覚を強化した。

  • ルネサンス期の芸術と数学
    ルネサンス期には、黄金比や幾何学的な対称性が「美」として評価された。これが数学的な「スッキリ」=「調和」という価値観を文化的に確立した。


4. 批判的な視点

  • 「スッキリ」は普遍的ではない
    あなたの指摘通り、何が「調和」かは文化や時代によって異なる。「スッキリ」が調和とされる背景には、当時のヨーロッパ社会における特定の思想(理性や秩序の重視)があったにすぎない。

  • 代替的な美の基準
    他の社会や時代では、複雑さや不均衡に「美」を見出す文化もある(例:日本の侘び寂び、イスラム美術の複雑な模様)。つまり、「スッキリ」が「調和」とされるのは、特定の歴史的・文化的背景に根ざした価値観にすぎない。


結論として、「スッキリ」が「調和」とされる理由は、認知的特性、宗教的思想、実用的必要性、そして文化的価値観の複合的な影響によるものといえる。ただし、それが普遍的な価値観ではなく、特定の時代と場所に依存していることを強調するべきだろう。この「スッキリ」に対する疑問は、『チ。』のテーマである「知識の相対性」にも通じているといえる。

4,美的感覚じゃなく問題解決のため

まるこ:君のその答えでもスッキリしないな(笑)「数学」というものが発見されて、”日がのぼり沈むまでの動きを数字で表したら、なんだか綺麗だった”ってこと?
んーーーー!?!?!?悩みや苦しみを解消しようとする人の試みが、文化や社会を前に進ませると思うから、なんだかしっくりこない。
数字を発見したのも「趣味」ではなく、何か理由があったのでは?たとえば”物々交換で喧嘩しないために編み出した”とか。

眞人:なるほど、あなたの視点は非常に重要だね。「数学的な美しさ」や「スッキリ」という感覚が、単なる趣味や文化の偶然ではなく、もっと根源的な人間の問題解決の試みから生まれたという考え方には説得力がある。では、その視点で数学の起源を掘り下げてみよう。

次回へ続く…


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