【薬屋のひとりごと】から学ぶ差別の乗り越え方:猫猫と壬氏の恋愛
猫猫と壬氏の恋が抱える困難の背景には、纏足(てんそく)に象徴される「美意識」が一つの要因となっています。当時の社会が「美しい」と考えた価値観は、女性の自由を奪い、恋愛を難しくしていました。今回は、そんな「美意識」と「抑圧」が恋愛に与えた影響を掘り下げます。
1️⃣纏足の下女が語る、時代と身分の苦しみ
1-1 前回の話と今回のテーマ
前回、「チ。ー地球の運動についてー」では神の作ったこの世界は、数学で解き明かせるものと信じられていたため、美意識は「数式でスッキリ説明できるものが合理的で美しい」と考えられていた、という話をしました。
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今回は「美意識」つながりで、「薬屋のひとりごと」に登場する「纏足の下女」について考えてみたいと思います。
「纏足の下女」はアニメ「薬屋のひとりごと」第9話「自殺か他殺か」に出てきます。宮廷内の錯綜した人間関係がある1人の下女を自殺へと導きました。水死体として遺体は回収されたのですが、猫猫はその足の特徴に気づいていました。
1-2 纏足ってどんなもの?
纏足とは、中国の宋(そう)の時代(960~1279年)に流行した風習で、幼い少女の足を特殊な布で縛り、足を小さく変形させる習慣です。これは「三寸金蓮(さんずんきんれん)」とも呼ばれ、小さな足が上品さや魅力の象徴とされていました。
「三寸」は纏足した足の理想的な大きさを示し、「金蓮」は土を踏んでも清らかさを失わない纏足の足を、蓮の花が泥から出てきても汚れに染まらない様子にたとえているそうです。
しかし、その背景には男性の性的欲求、つまりフェティシズムに基づく美意識がありました。この時代の男性は小さな足が可愛い、美しいという価値観を持っていたということです。
1-3 数学と美意識の関係
「チ。」に描かれた美意識は、数学という科学的な裏付けによって支えられたものでした。数式でスッキリ説明できるものが合理的であり、そこに神の理(ことわり)が宿ると信じられていたのです。
1-4 纏足と美意識の関係
一方、纏足に象徴される美意識は、男性の性的欲求や社会の価値観に強く依存しており、女性の身体そのものを美の対象として制限しようとするものでした。
纏足という文化が良いか悪いかはさておき、このように一見自然な感情とも思える「美意識」は時代や文化の違いによって生まれているということなのです。
2️⃣下女が纏足をしていた理由
纏足は、幼少期から長い年月をかけて施されるもので、施された女性は美しいと見なされる一方で、自由な歩行が制限されました。
一般的には貴族などの上流階級で流行っていた「纏足」が、後宮の下女に施されているのは例外的です。この場合、以下のような背景が考えられます。
2-1 商人・職人の娘の場合
商人や職人の家庭では、上流階級の美意識を模倣し、娘を結婚市場で有利にしようとしました。纏足を持つ女性は、上品さと美しさを象徴する存在と見なされていたため、こうした動機が背景にあったと考えられます。
2-2 農民の娘の場合
農民の家庭では、美しさを求めるよりも、むしろ女性を家に縛り付けて働かせる意図で纏足を施していたケースが多いとされています。歩行が困難になれば外出や逃亡が難しくなり、家族内での労働力として従事させることが目的だったのです。
2-3 没落した貴族の娘の場合
後宮の下女が纏足をしている理由として最も可能性が高いのは、かつては貴族だったものの、何らかの理由で没落し、後宮で働くことになった背景です。貴族階級では纏足が一般的であったため、彼女たちはその影響を受けたまま下女としての生活を強いられていたと考えられます。
3️⃣時代背景が壬氏と猫猫の恋路に与える影響
纏足の話を通じて、この時代には厳しい男尊女卑と身分制度があるということを知ってもらえたかと思います。
それと同時に、このような時代背景の中で、壬氏と猫猫の関係がどれほど異質であり、困難なものかが想像できると思います。
壬氏が貴族でありながら、身分を超えて猫猫に心を寄せる姿は、当時の価値観に反する象徴的なエピソードです。また、纏足が示す女性の抑圧を背景に、猫猫がその枠組みにとらわれず自由に行動し、壬氏と心を通わせる姿は、一層際立った輝きを放っています。
この対比こそが物語の魅力を引き立てていると言えるでしょう。
4️⃣最後に――「美意識」は社会的文化的に作られている
纏足は、社会が美意識という名のもとに女性を縛り付ける手段の一つでした。「チ。」に登場する数学的な美意識と比較することで、文化や時代がいかに異なる価値観を生み出してきたかを感じることができます。
「薬屋のひとりごと」の纏足の下女は、単なる背景キャラクターではなく、時代と美意識が女性の自由を奪う構造を象徴する存在です。その背景を知ることで、壬氏と猫猫の恋路が持つ困難さや美しさをより深く味わえるのではないでしょうか。
ところで現代は、中国においても日本と同様、纏足は「美しい」と感じられるものではありません。「病者」または「障害者」という課題として捉えられる問題です。
かつて美とされたものが、現代の価値観ではどうして「美」ではなくなったのか。そしてそれは良いことなのか?――このテーマについては次回、もう少し深く掘り下げて考えてみたいと思います。
「美意識」が社会や文化によってどう変化するのか、その普遍性と儚さについて、また一緒に考えていきましょう!
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👇️纏足のエピソードは「薬屋のひとりごと」第四巻に収録されています。
👇️二期も始まって今後が楽しみですね!