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【読書感想】とんでも春画/鈴木 堅弘

快楽が極まる時、足の指に力が入り拳のようになる、ということを春画から学んだ記憶があります。
一度じっくり見てみたいなと思い立ち、展示会や本を調べていたところ、とんでもない1冊に出会ってしまいました。

⚠️今回は春画を取り扱った本の感想です。
この手の話が苦手な方は読み進めることをお勧めいたしません。
特に今回は内容が上級者向けなので、興味がある方のみ読み進めてください。

それまで男女の交わりを描いたものを「春画」と思っていた私ですが、この本の表紙には「妖怪・幽霊・けものたち」という言葉が添えられています。とんでもない予感がします。

130点に及ぶ絵図の数々に加え、なぜ描かれたのかという歴史的民俗学的な背景について知ることができました。今回はそんな「とんでも春画」の読書感想をいたします。


とんでも春画/鈴木堅弘

とんでも春画ってなに?

本書のタイトルにもなっている「とんでも春画」とは、いったい…どんなものを指すのでしょうか。

本書では普通の春画を
「ありとあらゆる性の交わりを描いたもの」とし、尋常ならざるものとの性の交わりを描いたものを「とんでも春画」と定義しています。

とんでも春画のはじまり

江戸時代中期~後期頃、それこそ春画文化が成熟した時期に多く作られたそうです。「見る人を驚かせてやろう」と新しい表現に挑戦する背景には、様々な趣向を凝らすことが求められたからというのが分かりました。

衝撃的だった「とんでも春画」3選

ここでは本書で紹介されている130余点の奇想的な春画の中から、相沢が独断と偏見で選んだものを3つ紹介いたします。

かりつこつ:ご立派な骨

表紙になっている骸骨の妖怪「かりつこつ(亀頭立骨)」です。
よく見ると骸骨が全て男性器の形をしています。そして、本来骨が存在しないところがご立派になっているのもポイントです。

この絵を見たとき「人間の骨は206本、男は興奮すると1本増える」というどこかの映画のセリフを思い出してしまいました。

僧婦夢物語:ヤリすぎの末路

4ページにわたる圧巻の春画絵巻物です。
和尚と未亡人の情事を寺の小僧たちが覗いており、とあることから事態が一変してしまい・・・

幽霊が群がって小僧を襲う場面があるのですが、集団で襲い掛かってくる大きな女性器の霊は怖すぎます。

絵巻物の最後には『後悔しても時すでに遅し 過ぎたる姦淫は身を亡ぼす』という結びの言葉があり、春画から人生の教訓を宣いました。

阿満男婦寝(あまおぶね):情報量すごすぎ

この絵は1枚の情報が多いため、以下ポイントをまとめました。
・男女が情事中
・後ろから犬がやってくる
・犬が男性と合☆体
・本書では「男色図」として紹介
・犬はその後狙いを変え…

犬が登場する春画は2つのパターンがよくあるそうです。
1.男女の淫事の場に犬が乱入する(吠えるなど)
2.犬と人間が交わる

1枚に込められた情報量の多さ、私はまじまじとみてしまいました。

正直、3つに絞るのは大変でした。
なにせ妖怪、幽霊・死者、神仏、鬼・地獄、動物、奇想天外と幅があり多岐にわたっているからです。その分、何度も読見返して新しい発見があるのも本書の魅力かなと思います。

春画の「なぜ」を深掘り

春画の紹介解説にとどまらず、現代にも残っている「性」にまつわるコラムがあり、知的好奇心がくすぐられました。

なぜ「性器」をまつるのか?

江戸時代は性にオープンで自由、というイメージが強いですが、私は信仰ではないかと思ったことがあります。巨大な男性器のみこしを担ぐ祭りがあったり、性器を模したお守りやお土産品など現代でも見かけることがあったからです。

本書でも男性器を性の神としている春画が紹介されています。さらに読み進めると、こうした春画の想像力は限定的なものではなく、豊穣や厄災を望む素朴な信仰心を示しているとありました。

日本人の大らかな性風俗を表しているのを思い出させてくれている、ともありました。私はそこへ加えて「自分の体のパーツを崇めるほどに愛でる」自己肯定感のようなものも感じました。

葛飾北斎「蛸と海女」の秘密

世界一有名なこの春画のことを、あなたは本当に知っていますか?

本書112ページ

本書の最後ではタコに襲われている女性の絵にまつわる「謎」を5つ紹介しています。
北斎がどのような意図でこの作品をえがいたのか、いかにして海外へ広がり日本に戻ってきたのかなど、以下のポイントにはたくさん驚きと発見がありました。

  1. 北斎はアイディアを〇〇する名手!?

  2. 神話の世界と「蛸と海女」

  3. 蛇が蛸になる俗識!?

  4. 蛸が人を獲る奇談・見世物

  5. ジャポニズムから戦争画へ

まとめ:圧倒的なエネルギー

突き抜ける熱量を感じた一冊でした。
江戸のエロ本という偏見を打ち破る、力強いものを目の当たりにした今までにない読了感でした。春画のそのものにも圧倒されますが、時代背景を知ると春画を通して、新しい事に挑戦する爆発力みたいなものをより大きく感じられました。

『とんでも春画/鈴木堅弘』を読んで感じたことや、特に印象に残った作品があればぜひコメントで教えてください。また、他の春画関連の書籍でおすすめがあれば共有していただけると嬉しいです!✨

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相沢美紗
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