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レポ①豊島将之九段とタイトル戦擬似体験in山水館~新関西将棋会館建設クラウドファンディング~

 こんにちは、相沢です。
 2022年5月14日、大阪府高槻市の山水館で行われた新関西将棋会館建設クラウドファンディングの返礼イベント「王将戦会場で豊島将之九段とタイトル戦擬似体験」に参加してまいりました。
 とても素晴らしい体験で一生の思い出になったので少しでも多くの方にお伝えしたく、また自分の感動を思いのまま書き連ねたく、すぐにでもレポを投稿したかったのですが、体験が強烈すぎて(推しが目の前にいるのですよ!)なかなか文章に出来ず、まさかの四か月後となりました。
 レポというか、ただ筆者が推しへの思いを叫んでいるだけのものになっております(しかもめっちゃ長い)。流し読みでもチラ見でも大変うれしいです。よろしくお願いいたします。

 記事は筆者の記憶をもとに書いており、数か月前のことですので記憶違いがあるかもしれません。すみません。





 序章 15人に入りたい


 まず、相沢がこのクラファンに参加することになった経緯から書こう(完全に蛇足なのでどうぞ読み飛ばしてください)。


 最初、「王将戦会場で豊島九段とタイトル戦疑似体験」の文字を見たとき、相沢はきちんと読みもせず「とよぴが王将戦の解説してくれるんかな~確かにめっちゃ贅沢やけど30万て……解説されたとこであたしに理解できるとも思えんし無理やな~」と直感で思っていた。

 その後、イベントの中身について詳細が発表されると、それを見た相沢の思考は一瞬停止した。思考が停止したということは、つまりそういうことだ。相沢はその瞬間、自分がこのイベントに申し込むことを悟っていたのである。

 豊島将之先生と、高槻市山水館の実際に王将戦の番勝負が行われた対局室でタイトル戦の疑似体験ができ、ツーショット記念撮影ができて、サイン会まで行われる。定員は15名。

 もしこれが「30万円で豊島先生との豪華イベントに参加できますよ」であれば、相沢は申し込まなかっただろう。金額の問題というより(金額の問題でもあるが)、自分が豊島将之と盤を挟んでいい人間ではないから。そこに座ることが出来るのは、そこに座ることが出来るほどの努力をした人間だけだからだ。
 だが、これはクラウドファンディングである。私はその席を30万で買うのではない。新しい関西将棋会館建設のために30万を寄付し、その返礼品をいただくのだ。

 この15人に入りたい。相沢はそう思ってしまった。

 とはいえやはり金額が金額である。相沢はけして裕福ではない。そんな贅沢をしていい人間でもない。だが、運転免許を持っていないから車を所有することもないし、飛行機が苦手なので海外旅行に行くこともない。高級時計や高級バッグにも興味はなく将棋観戦以外にこれといった趣味もなく、つまり、何に価値を見出し何にお金を使うかはその人の自由ということだ。相沢の場合はそれがブランド品や車ではなく、関西将棋会館建設のためのクラウドファンディングだったというだけの話なのだ。

 さて、自分の欲望に対する言い訳が出そろったところで、実際に「申し込む」ボタンを押すことにためらいを感じてしまうのが相沢の小市民たるゆえんである。
 応募開始時刻からしばらく様子を見ていたが、やはり高額なだけに即刻完売というわけにはいかないようだった。だがそれでも、1人2人と支援者が増えていき、残数は確実に減っていく。このまま見ているだけでは15人に入れない。相沢のためらいは長くは続かなかった。
 相沢はスマホに表示されたそのボタンをタップした。すぐに郵便局に行き、30万円を振り込む。こうして相沢は無事に、7人目の支援者となったのである。
 2022年、4月8日のことだった。

 ちなみに定員の15名はその日のうちに埋まった。豊島将之という棋士は、やはりすごい人気なのだなあ。

 そしてここから、相沢の禁欲生活が始まった。
 豊島先生は166センチ53キロだと聞いたことがある(女子か!)。画面越しに見ていても実際にお姿を拝見してもとても、どこにあんな体力と精神力があるんだと思うほど華奢でいらっしゃる。そして佇まいも所作も繊細で美しい。そんな先生とツーショットで写真に収まるとして、できあがった写真を見て自分の醜さに死にたくなるようなことだけは避けたい。
 相沢は間食をやめた。飲酒もやめた。ほぼ毎日のように摂取していた甘い物を完全に絶った。頂いたお菓子には封をして「5月15日まで開封厳禁!」と書いた(誰かにあげればいいやん)。外食はせず、早寝早起きをし、毎日一万歩歩き、普段めんどくさがってやっていなかったお肌の手入れも念入りに行った。だって推しに会うのだもの。少しでもましな容態でなければ恥ずかしくて私が死ぬやん。

 そんな中、将棋連盟様よりイベント詳細のメールが届いた。

・高槻駅集合、送迎バスで山水館へ
・タイトル戦を再現した対局室でツーショット写真撮影、持ち時間は1人6分、撮影中は会話を伴うためマスク着用、しかし最後の1分に関してはマスクを外しての撮影を認める(会話厳禁)。
・昼食(豊島九段は別室)
・サイン会は1人5分、会話を伴うためマスク着用、ただしサインを持ってツーショット写真撮影を希望する場合はマスクを外すことが可能(その間は会話厳禁)
・揮毫文言は事前にメール(為書き不可)
・質問コーナー(質問は事前にメール)
・豊島九段は和服着用
・プレゼント等は直接渡せないがスタッフに預けることが出来る

 ざっくりこんな感じだった。
 相沢は固まった。なんとなく予想していたとはいえ「会話」という文字を見るとインパクトがすごい。
「会話を伴うため?」「6分?」「5分?」「合わせて11分とよぴの時間を独り占め??(←ちがう)」むりやんしぬやんなんもしゃべれん! 生きて帰って来れる自信がない! その日が相沢の命日となるのか!

 半ば本気でそんなことを考えながら、前もって会話のシュミレーションをしておくべきだと思いながらも推しが目の前にいることを上手く想像出来ずになんのプランも用意できないまま、相沢はかくして、その日を迎えたのである。


第一章 それぞれの人生


 2022年5月14日。相沢は神戸市内の自室で、目覚ましが鳴るより数分早く目を覚ました。
 推しと会う(会話する!)シュミレーションは不可能でも、高槻駅の集合場所まで辿りつくためのイメトレは何度も行ってきた。遅刻なんてことになったら笑えないし泣けない。自分は緊張しているのかなど考える余裕もないまま、淡々と準備を進め家を出る。駅まで歩く途中、少しだけ雨が降った。豊島さん今どのあたりにいるかな。雨に降られていないといいな。

 相沢を乗せた電車は無事に高槻駅に到着。しかし相沢はここで「切符をなくして駅員さんに半泣きで訴えるもよく捜したらカバンから出てくる」という大人として信じられない事態を起こす。いくら推しに会う(会話を伴う!)からといって朝から動揺し過ぎである。大丈夫かおまえ。

 それでも集合場所である改札近くのコンビニ前には時刻の5分前に辿り着いた。きょろきょろしなくても、それらしい女性たちがすでに集まっている。相沢はほとんど最後の到着者だったようだ。スタッフさんらしい男性に名乗り、その後すぐにもう1人の参加者さんが到着されると、「少しお時間には早いですが皆さんおそろいですので出発します」となる。
 スタッフさんについてバス乗り場まで歩きながら、近くにいたきれいなお姉さんとどちらから来られたんですか、などときゃっきゃとお話しする。さすがに浮足立っている。イベントは動き出したのだ。
 山水館さんのバスに乗り込む。相沢の記憶が確かなら、乗組員は参加者(直接山水館さんまで行く人もいるので全員ではない)の他に運転手さん・高槻市職員さん・連盟スタッフさんの3名。
 バスは途中、新関西将棋会館建設予定地を通ってくれた。ああ、ここに新しい将棋会館ができるのか。完成したら見に来て「この会館は私が建てたのよ!(←ちがう)」と自慢しよう。
 移動中、スタッフさんたちの「豊島先生タクシーで入られた……」「何年か前の王将戦で一回来てはるから……」などという会話が聞こえ、耳をそばだててしまう。豊島先生到着済み? うそやん! いるはずがない、とよぴがそこにいるはずがない!(ある)

 バスは山中をけっこう奥まで進み、山水館へとたどり着いた。
 降車し、深く息を吸い込む。すぐそばを川が流れ、最高のロケーションだ。タイトル戦が行われた場所。一度ゆっくり泊まってみたいと、その時の相沢に思う余裕はあっただろうか。
 宿の方々に温かく迎えられる。入り口で名前を確認し、番号札(首から下げるやつ)を渡される。相沢は「7」だった。他の参加者さんたちと、どうやら入札(?)順みたいですねとお話しする。お話しでもしていないと平静を保てない。いやお話ししてもらっていても保てていたかどうか怪しい。
 数組に分かれてエレベーターに乗り、五階の部屋(宿泊用ではなく、広間みたいなところ。明かり障子に絨毯敷きで椅子が並べられている)に案内される。まずはそこで本日の流れと注意事項を聞いた。

・まず隣の部屋(となり?!)にてメインイベントの「豊島九段とタイトル戦疑似体験」。参加者14名(おひとり来られなかったもよう)を番号順に3人一組に分けて一組ずつ行う。1人6分の持ち時間は対局時計ではかる(ここで少し会場がざわめく。対局時計とはナイスアイディア!)。写真撮影はお客さんのカメラを預かってスタッフが行う。他の2人の体験中は自由に撮影してOK(マジか!)。

・その間、待機組は順番に渡辺王将がタイトル戦で実際に宿泊された部屋を見せてもらう。

・その後は昼食(実際にタイトル戦で提供されたメニュー)

・午後はサイン会。この部屋で行う。持ち時間はやはり対局時計ではかる。1人ずつなので、待っている間に隣の部屋(疑似体験会場!)で豊島先生の信玄袋の中身特別公開を自由に見られる(マジか!)

・その後、別の部屋で質問コーナー。

・写真はSNSにアップOK。しかし豊島先生の信玄袋の中身は私物なのでアップ禁止。


 説明のあと「豊島先生へのプレゼントをお持ちの方はこちらでお預かりします」との声がかかり、参加者の皆さんがスタッフさんに渡していく。相沢の用意したものは手紙のみだったが、高級ブランドや高級デパートの紙袋が見えてちょっと恥ずかしくなる(手紙だけなのは相沢だけだったもよう……)。

 そしてすぐに、一組目の3名が疑似体験会場へ案内されていく! 本当に! 豊島先生が! 隣に! いらっしゃるのか!
 まともに考えると発狂しそうなので(するな)、相沢はある程度で思考を止め、スタッフさんの案内に従って渡辺王将の宿泊された部屋へ向かう。記憶がおぼろげだがひとつ下の階だったか(違うかもしれない)、それはそれはすごい部屋だった。
 一泊1名様35万円のお部屋だという。もちろんお風呂付(温泉かどうか忘れた……)、しかも浴槽につかりながら素晴らしい景色を眺められる! おっきなテレビとマッサージチェア、お金持ちになるかトップ棋士になるかしないとこんな部屋には泊まれないのかと思ってしまう。

 部屋に戻り、他の参加者さんたちとお話しするうちに、一組目が戻り二組目が呼ばれていく。
 疑似体験から帰ってきた方はみんな夢の世界にいたような面持ちでいらっしゃった。思わず「豊島先生ほんとにいたんですか??」などと当たり前のことを聞いてしまう相沢。
「いました! でも全然見れません!」
「ほんとにいるんだ! 隣の部屋に!」
 知らない人が聞いたらおまえら何しに来たんだと思うだろうが、参加者たちはみな同士である。興奮状態できゃっきゃと盛り上がる。
 ところで、参加者14名は全員女性だった。もしかしたらそういうこともあるかなと予想はしていたが、本当に全員が女性なのだ。体験の内容もあるだろうが、豊島将之の女性人気はやはり高い(おじさんのファンも多いと思うけど)。年齢は幅広いように見えた。お着物の方もいらっしゃり、とても綺麗だった。関西の方が多かったが、東京や九州から来たという方もいた。
 きっとみなさんにご家庭やお仕事があり、みんなそれぞれのご都合をなんとかして、今日この日を楽しみにここに訪れたのだ。それぞれにそれぞれの人生があって、そしてみんな将棋が好きで、豊島将之のファンなのだ。なんて素敵なことだろう!

 と、感慨にふける余裕は、当然その日の相沢にはなかった。相沢は三組目である。刻一刻と、その時が迫っている。


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